情報処理推進機構(IPA)は2016年6月2日、2015年度の「未踏IT人材発掘・育成事業(未踏事業)」について、卓越した成果を挙げたと認められた「スーパークリエータ」10人を発表した。心拍数からストレスなど心の状態を測定するWebサービスや、ディープラーニングで画像を認識する手乗りサイズのカメラを開発したクリエーターなどが認定された。

 スーパークリエータは、未踏事業に採択されたクリエーターの中から、アイデア、発想力、独創力に富む「新規性(未踏性)」、想像力、企画・設計・実装能力が高い「開発能力」、将来さらに大きく伸びる、あるいは社会的インパクトを与えるような活躍の可能性がある「将来の可能性」の三つの条件のうち、いずれか一つの認定基準に該当している場合に選出される。2015年度の未踏事業で採択されたクリエーターは全体で23人だった。

 スーパークリエータに認定されたクリエーターと各クリエーターが実施したプロジェクトは以下の通り。

プロジェクト名クリエーター(所属)
プログラマブルな楽器「sigboost」で高負荷な音声合成を低遅延で実行青木海氏(筑波大学大学院システム情報工学研究所)、尾崎嘉彦氏(筑波大学大学院システム情報工学研究所)
アプリケーションの次の操作を予測する「LIGHTNING UI」を実装したマウスインタフェース安野貴博氏(フリーランス)
心の状態を可視化する「心温計」による心のモニタリング石丸翔也氏(ドイツ人工知能研究センター研究員)
拡張性と検証性を兼ね備えた研究開発のためのレンダリングソフトウェア「Lightmetrica」大津久平氏(東京大学大学院情報理工学系研究科創造情報学専攻)
動画から動物の行動データを迅速に抽出するプラットフォーム「UMA Tracker」竹内理人氏(東京工業大学大学院総合理工学研究科知能システム科学専攻)、山中治氏(広島大学大学院理学研究科数理分子生命理学専攻)
深層学習で画像を認識する小型でインテリジェントなカメラモジュール「Nano Deep」土屋祐一郎氏(東京大学大学院情報理工学系研究科知能機械情報学専攻)
プログラミングが好きになるゲーム改造プラットフォーム「HackforPlay」寺本大輝氏(ハックフォープレイ社長)
効率の良いWebデザイン検証サービス「Eyecatch」内藤剛生氏(Tallin University of Technology)

 今回は消費者向けサービスや、IoT(Internet of Things)での利用、子ども向けのプログラミング学習など、IT市場で注目されているサービスや製品の開発が目立った。

 石丸翔也氏の「心温計」は「Apple Watch」や「J!NS MEME」といったウエアラブルデバイスや、FacebookなどのWebサービスと連携して実際の行動量や、Webサイト上の活動といった行動量のデータを取得。データを解析して、ストレス度合いを測定する。「風邪の際に熱を測るように、心の不調も測定できるようにしたかった」と石丸氏は開発の動機を話す。

 IoTでの活用を想定しているのが土屋祐一郎氏が開発した「Nano Deep」だ。手のひらサイズのカメラに、ディープラーニングを実行するソフトを搭載し、カメラ単独でAI(人工知能)を利用した画像処理を可能にした。「ディープラーニングを搭載できるチップを自ら開発したことで、小型化に成功した」と土屋氏は説明する。

 子ども向けプログラミング学習に向けたサービスが寺本大輝氏の「HackforPlay」だ。一見するとRPG型のソフトだが、そのままプレーすると敵が強すぎて倒せないため、プレーヤーである子どもが、敵のステータスを変更したり、「キャラクターを瞬間移動させる」といった解決策をプログラミングで実行し、ゲームを進めるというソフトだ。小学生10人を対象にした3カ月のスクールを開催するなど実証実験も進めている。

 今回のスーパークリエータ認定について、未踏事業の統括プロジェクトマネージャーを努める竹内郁雄東京大学名誉教授は、「スーパークリエータは日本の元気の旗印。後に続く人材の発掘を手伝ってもらい、子どもたちに夢を与えてほしい」と話した。