吉野家ホールディングスの安部 修仁会長
吉野家ホールディングスの安部 修仁会長
(写真:井上 裕康)
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 「危機にあっても不条理を排除し、組織の意識や目標を統一して策の実行を率いる。組織全体のベクトルが一致していれば決定的な破綻はない」。2016年5月25日、東京・目黒のウェスティンホテル東京で開催した「第3回イノベーターズ会議」(日経BP社 日経ITイノベーターズ主催)。吉野家ホールディングスの安部 修仁会長は、企業変革を担うリーダー像をこう述べた。

 「ミスター牛丼が語る 変革リーダーの条件」と題した特別対談での一コマだ。モデレーターは日経ITイノベーターズ編集長の戸川 尚樹が務めた。

 1980年の会社更生法の適用申請と、2000年代のBSE(牛海綿状脳症)問題による牛丼販売中止。冒頭の発言は二度にわたる経営危機に直面し、それを乗り越えた安部会長の経験から出てきた言葉だ。一度目の危機は1970年代の後半。「あまりにも企業体力の限界を超えた成長が、ヒト・モノ・カネすべてを疲弊させた」。商品も店舗運営もともに質が落ち、資金繰りに窮したあげく、経営破綻に追い込まれた。

 安部会長は当時、部長職として経営再建に携わることになった。「当時は上のポジションで辞めていく人が多かった。30代になった僕たちがあぶりだされるようにリーダーにならざるをえなかった」。

 従業員として働く意義を見出すのが困難な時期。安部会長はしかし、「モチベーションを保つのが非常に難しかった時期に、本当のリーダーシップが養われた」と振り返る。部下と一対一のミーティングを重ねて、働く意欲を引き出す“ネタ”を見つけていった。「施策や論理は紙でも共有できるが、共感はフェース・ツー・フェースでなければ醸成できない」。

 BSE問題が発生した当時、同社は扱う牛肉の安全性に関して、海外の知見も集めて説明を尽くしたという。結局は主力商品である牛丼を販売できなくなるという試練に直面したが、「逆風の中では詭弁を弄してはいけない。説明を尽くせばいつか理解を得られて、信頼につながる」。

 失敗を経験した数では「人後に落ちない」という安部会長。次世代のリーダーを目指す人にも、「数多くの失敗を重ねて、成功を掴んでほしい」とアドバイスした。「現実は不条理なことだらけだし、人間は失敗する生き物だ。重要なことは失敗を放置しないこと。間違ったら修正すればいい。次世代のリーダーには、小さな単位のゼネラルマネジメントを積み重ねていく経験をしてほしい」。