楽天 執行役員、楽天技術研究所 代表の森正弥氏
楽天 執行役員、楽天技術研究所 代表の森正弥氏
(撮影:井上 裕康)
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 楽天 執行役員、楽天技術研究所 代表の森正弥氏は2016年4月26日、東京・目黒の目黒雅叙園で開催した「イノベーターズ・オープン・フォーラム」(日経BP社 日経ITイノベーターズ主催)で、「ビッグデータ、AI、IoT 『個別化』後の人工知能活用の世界」と題して講演した。森正弥氏は、日経ITイノベーターズのエグゼクティブメンバー(幹事会員)を務めている。

 楽天は、機械学習をはじめとする人工知能(AI)技術の事業応用に最も熱心な国内企業の一つである。世界5カ所に研究開発拠点を構え、深層学習(ディープラーニング)を含めた機械学習に精通した人材を集めている。

 森氏は講演の冒頭で「もう、AIを使わないと(企業は)生き残れない。この10年で、世界は変わってしまった」と語った。

 「世界の変化」とは、誰もがスマートフォンを持ち、いつでもどこでも多様な情報を活用できるようになった結果、個人のニーズが恐ろしく多様化したことだ。地域、年代、性別、所得といった属性では、個人の嗜好を図ることができなくなった。

 楽天市場での売れ行きにも、それが現れているという。地元原産の珍しい柑橘類を絞ったドリンクが全国で大人気になったり、「実際に着られるリアル甲冑」という商品が6カ月待ちの人気になったりと、「どの商品が売れるのか、人間のマーケターが事前に予測することはできない」(森氏)。

 こうしたロングテール商材を人手で分析するのは限界で、いかに人を機械に置き換え、隠れたニーズをAIに自動的に発見させるかが、企業が生き残るカギになるという。

 例えばファッション分野なら、マーケターがジャンルを定義して商品を勧めるのではなく、商品説明などの各種データから「こうしたジャンルが存在する」ことをAIに発見させる。「楽天の場合、具体的にはLDA(Latent Dirichlet Allocation:テキストのトピック解析技術の一つ)の手法でファッションのジャンルを『自動的に発見』している」(森氏)。複数のアルゴリズムを競わせ、最も優れたものを自動的に選択させることもある。
 
 ロングテール商品の需要予測も、教師ありの機械学習で自動的に行っている。予測対象となる被説明変数は「全体の販売量」、予測の材料となる説明変数は「週、月、キャンペーン、月末、連休、温度」などで、人間には見えない隠れたパターンを見つけ出す。これにより在庫や価格を最適化し、コスト削減につなげたという。

 最後に森氏は、企業がAI技術を活用する体制として「横断的なチームが必要になる」とした。アクセス解析やUI/UX設計に詳しいWebデザイナー、会員データの扱いに精通したマーケター、HadoopやSparkを扱えるデータエンジニア、AIの理論的側面を支える研究者を集めて情報交換することで、社内でAI技術を実ビジネスの問題に適用しやすくなるという。