米当局が米ニューヨーク州で違法薬物捜査に関する「iPhone」のロック解除を米Appleに要請していた問題で、米司法省(DOJ)はAppleの協力が不要になったとして訴訟を取り下げたと、複数の米メディア(ComputerworldCNETなど)が報じた。

 DOJは現地時間2016年4月22日の夜、ニューヨーク州東地区連邦地方裁判所に書類を提出し、「夕べ、ある個人からiPhoneをロック解除するためのパスコードが提供され、昨晩遅くにそのパスコードを手動で用いたところ、データにアクセスできた」と説明した。

 iPhoneのロック解除を巡ってDOJが訴訟を取り下げたのはこれが2度目。米カリフォルニア州で昨年12月に発生した銃乱射事件の捜査に関して米連邦捜査局(FBI)がAppleにロック解除の協力を要請した問題では、初回審問の直前でロック解除の代替手段が見つかったとして審問が中止され、FBIが第三者の協力によりロック解除に成功したため3月28日に訴訟が取り下げられた(関連記事:DOJがAppleとの訴訟を取り下げ、iPhoneロック解除に成功)。

 一方、ニューヨーク州では、違法薬物捜査で押収されたiPhoneのロック解除をFBIがAppleに要請したが、同州東地区連邦地方裁判所のJames Orenstein下級判事は2月、Appleの主張を支持する判断を下し、捜査当局が根拠とする「All Writs Act(全令状法)」の適用は違憲の可能性があるとの見方を示した。これを不服としてDOJは3月、裁決の見直しを同地裁のMargo Brodie上級判事に求め、カリフォルニア州での訴訟取り下げ後も「依然Appleの助けが必要」だとして、訴訟を継続する姿勢を示した。カリフォルニア州で対象となった端末は最新OS「iOS 9」を搭載した「iPhone 5c」だったのに対し、ニューヨーク州のそれは古いOS「iOS 7」を搭載した「iPhone 5s」であるため同じ手段は使えないとの説明だった。これに対しAppleは今月、当局の主張を退けるよう裁判所に求め、「政府は、Appleの協力が不可欠であることを証明する責任を十分に果たしていない」と指摘し、「将来、前例として使える命令を得ることこそが政府の目的だ」と非難していた(関 連記事:Apple、iPhoneロック解除要請で政府非難 裁判所に書類提出)。なお、審問の日程はまだ決められていなかった。

 DOJは、iPhone 5sのパスコードを提供した個人について明らかにしていないが、米Wall Street Journal(閲覧には有料登録が必要)が関係筋から得た情報によると、その個人とは端末の持ち主であるJun Feng容疑者だという。Fengは当初、パスコードを覚えていないと供述していた。Fengはすでに罪を認め、数週間以内に判決が言い渡される予定。

 ちなみに米当局がカリフォルニア州のiPhoneロック解除のために支払った対価は約140万ドルであることを米連邦捜査局(FBI)のJames Comey長官が示唆したと、英Financial Timesは報じている。