図1●津波で流された野蒜駅でのリポート風景(写真提供はTBSテレビ、以下同)
図1●津波で流された野蒜駅でのリポート風景(写真提供はTBSテレビ、以下同)
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図2●TBSのSサブに置かれた受信機。右画面が今回STCクラウドに対応した受信機(左画面は通常の受信機で今回はiPhone受信に使用)
図2●TBSのSサブに置かれた受信機。右画面が今回STCクラウドに対応した受信機(左画面は通常の受信機で今回はiPhone受信に使用)
図3●TBSの回線センターに置かれたもう一つの受信機でも同時受信
図3●TBSの回線センターに置かれたもう一つの受信機でも同時受信
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 TBSニュースバードでは2016年3月11日に、特別番組「東日本大震災から5年~被災地の明と暗~」を放送、3人のキャスターが被災地の今を中継した。この中で、ハイビジョン映像によるモバイル―クラウド中継が実施された。世界初の試みという。技術開発は、ソリトンシステムズが担当した。

 ソリトンシステムズは、IPモバイル中継システムとして「Smart-telecasterシリーズ」を展開してきた。LTEやWiMAXなどのモバイル回線を使い、リアルタイムIP動画伝送を可能とする。圧縮率の高い符号化技術と、揺らぎの大きいモバイル回線上でも遅延が少なく映像伝送が安定的に可能という点が特徴という。モバイル通信網がカバーする範囲では、小回りのきく機動的な中継が可能になるシステムとして、TBSテレビなど多くの局で採用されている。昨年には、H.265のハードウエアエンコーダ(FPGAベース)を搭載、より低ビットレート環境におけるフルHD伝送を実現した「Smart-telecaster ZAO」を製品化した。

 今回の特別番組で実施した「モバイル-クラウド中継」は、IP伝送の途中でクラウド(Microsoft Azure)を経由することで、さらなる高度化を図ろうというものである。これまでは、あくまでIPベースで1対1のリアルタイム伝送を行うシステムだった。今回、Azureの仮想マシン上にSmart-telecasterの対応機能を構築してクラウドを経由することでマルチ配信が可能になった。3月11日は、実証の第一弾として、このストリームの分配機能を実現した。具体的には、LTEを5回線分束ねてZAO送信機から送られてきたストリームをいったんクラウドで受信、クラウドからニュースバードのサブ(副調整室)と、TBSテレビの回線センターに分配した。非常に奇麗な映像をクラウド経由で伝送できたという。この日は、昨年と同様に、Smart-telecasterのiPhone版を使った中継も実施した。

クラウドを経由することで様々な展開も

 モバイル中継でクラウドを経由させることで、マルチ配信以外にも様々な可能性が広がる。例えば、配信データの同時録画/おっかけ再生、メディア変換など、各種機能をクラウド上に具備することができるようになる。また、クラウド対応とすることで、必要に応じたスケーラブルな運用や、Webからの制御など運用の柔軟化を図れる可能性もある。今回の中継は、こうした様々な可能性に向けた取り組みの第一弾とも位置づけられる。