「米国では巨大なIT企業が1社で人工知能の開発を進めている。日本には残念ながら、そういった巨大なIT企業が存在しない。だが、人工知能の開発は多くの企業や大学が取り組んでいるところだ。こうした散在する技術やソフトウエアを一つにまとめ上げていくプラットフォームの役割を果たすべく、人工知能研究センターを設立した」。

写真●産業技術総合研究所が設立した「人工知能研究センター」で研究センター長を務める辻井潤一氏(撮影:井上 裕康)
写真●産業技術総合研究所が設立した「人工知能研究センター」で研究センター長を務める辻井潤一氏(撮影:井上 裕康)
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 産業技術総合研究所(産総研)の辻井潤一氏は、自身が研究センター長を務める「人工知能研究センター」の役割について、こう話す(写真)。辻井氏は、人工知能開発を推進するために不可欠な要素として「DATA(データ)」「SEED(研究者)」「NEED(ビジネスモデル)」の三つを挙げる。米国ではグーグルのような巨大なIT企業が1社で全てを集めていて、非常に短期間で研究段階から実用段階へとステップアップさせている。例えばグーグルの取り組みで見れば、自動車の自動運転技術や深層学習を活用したゲーム対戦などがある。いずれも実証実験ベースで実績を積み上げている。

 これに対して日本は、「三つの要素がいずれも様々な企業や大学に広く薄く広がっている。しかも、三つの要素がうまく連携していない」と、辻井氏は指摘する。膨大なビッグデータを集めている企業が必ずしも、そのビッグデータをうまく実際の事業に活用できているわけではないといったことだ。

 冒頭の発言にあるように、こうした日本の現状を変えるために産総研が5月1日に設立したのが、「人工知能センター」である。これまでばらばらだった日本の人工知能開発を、同センターが一つにまとめて日本の産業競争力を高め、豊かな社会の実現を目指していく狙いがある。