アナリティクスがマネタイズにつながらないと悩む企業は少なくない。こうした課題に対して、日本IBMの西牧洋一郎氏は「まずは予測モデルを業務で使ってみて、それを検証するようなサイクルを確立することが重要だ」と助言する(写真)。同氏が、2016年3月4日に東京で開催された「データサイエンティスト・ジャパン2016」において、「ビジネス課題をアナリティクスで解決するために本当に必要な要素」と題した講演を行った。

写真●日本IBMの西牧洋一郎アナリティクス事業部SPSS ITスペシャリスト
写真●日本IBMの西牧洋一郎アナリティクス事業部SPSS ITスペシャリスト
(撮影:古立 康三)
[画像のクリックで拡大表示]

 講演の冒頭で、西牧氏は「IoT」や「機械学習」「データレイク」「ディープラーニング」など、アナリティクスに関する最新技術や最新動向を表す用語が羅列されたスライドを投影。「これらの言葉をよく耳にするようになったが、いずれもビジネスを解決するアナリティクスの要素ではない」と指摘した。「いくらデータを蓄えていても、それだけで価値が生まれるわけではない。業務の中にデータ活用を埋め込んでマネタイズしなければ意味がない」と強調した。

航空業界では大きなインシデントが発生しない時代に

 次に、データ活用に成功している最新事例を紹介した。最初は、不正検知にアナリティクスを活用している損害保険会社の事例だ。損保会社は、顧客からのレピュテーション(評判)を向上させるために、事故などが発生した際には保険金をすぐに支払いたいと思っているという。その半面、交通事故を偽装するといった詐欺を防がなければならないので精緻な調査を行いたいという要望もある。

 理想は、顧客がコンタクトセンターに連絡してきた際に、瞬時に詐欺であるか否かを判断することである。そこで、不正検知にアナリティクスを活用。過去の不正な事例の特性を分析し、新規の案件との共通性を判断することで不正であるか否かを見極めているという。さらに最近は、「過去に事例がない新たな手口でも、『教師なしの機械学習』という手法で対応できるようになってきている」と語る。

 航空機のエンジンを設計・製造しているメーカーの多くは、製品に取り付けたセンサーからデータを収集している。大手航空機メーカーの新型機材では、空を飛んでいる間、4分の1秒ごとにメーカーにデータが集約されるという。このデータを分析し、機材の不調を予測しているのだ。さらに、航空機の詳細な操作方法も把握できるので、機材メーカーがパイロットの技能を診断し、コンサルティングを行っているケースもあるという。西牧氏は、「数年後には、航空機には大きなインシデントが発生しないような時代になる」と予測する。

 医療業界では、電子カルテのデータを分析する取り組みが進みつつある。医師が患者から症状を聞いた際に、過去に似たような症状の患者群を検出。その患者群の中で、その後に似たような症状が出ていれば、目の前にいる患者にも同じようなことが起こる可能性が高いので、予防対策を講じることができる。