写真●全日本空輸の幸重孝典取締役執行役員業務プロセス改革室長
写真●全日本空輸の幸重孝典取締役執行役員業務プロセス改革室長
(撮影:井上 裕康)
[画像のクリックで拡大表示]

 全日本空輸(ANA)の幸重孝典取締役執行役員業務プロセス改革室長(写真)は2016年2月29日、東京・目黒の目黒雅叙園で開催された「イノベーターズセミナー」(日経BP社 日経ITイノベーターズ主催)で講演した。「ANAのデジタル戦略、次の一手」と題して、同社が進めてきたデジタルサービスの事例と実績、今後の方針などを語った。

 まず「第1次デジタル戦略」としてECサイトの取り組みを話した。同社が国内線のインターネット予約サービスを開始したのは1997年。「当時、広告や宣伝からインターネット活用を始める企業が多かったが、当社は最初からEコマースに利用した」(幸重氏)。スクリーンにECサイトによる航空券の販売実績の推移を示し、約20年間で販売チャネルがリアルからネットへ急激にシフトしていることを説明した。

 次に「第2次デジタル戦略」について。2006年以降力を入れている、スマートフォンなどモバイル端末の活用だ。「モバイルを活用することで、お客様に対して“サービスチェーン”を構築できる」と幸重氏は説明する。

 幸重氏の言うサービスチェーンとはこうだ。第1次デジタル戦略で、予約とチケット購入、空港でのチェックインなどの支援を実現した。しかしチェックイン以降、デジタルサービスの観点では顧客接点は切れていた。そこで、モバイル端末を活用することで、空港の案内、機内、到着空港の乗り継ぎ、といったシーンまで顧客の行動を支援する。

 「既にお客様からも、モバイルの活用に関してかなり現実的なご要望をいただいている。こうした要望に応えることのできる航空会社が勝ち残っていくだろう」(幸重氏)。

 今後はさらに「デジタル時代にふさわしい商品の開発を進めたい」と、幸重氏は話す。つまり、商品自体をデジタル時代に合うものに切り替える。例えば、座席指定の有無、手荷物を預けるか預けないかなど、サービスの量によって航空券の価格を変えるといったことだ。インターネット予約が多数を占める現在では、実現が容易になったという。

 人工知能やロボットについても言及。「非常に難しいテーマだが、人のサービスとどう組み合わせれば、最もお客様にとって快適になるかを考えている。ICTと日本企業のおもてなしの力を掛け合わせ、世界で勝ち残れるサービスを維持していく」と話し、講演を締めくくった。

 講演の後は幸重氏への質疑応答タイム。デジタル戦略を担う人材の育成法や変革時に抵抗勢力へどう対処するかなどについて質問を受けると、幸重氏は実体験を交えながら回答した。