現在、日本における携帯電話の最大通信速度は、3つのコンポ—ネットキャリア(CC)を使ったキャリアアグリゲーション(CA)による下り最大300Mビット/秒だ。NTTドコモ、そしてKDDIが一部地域でサービスを展開している。携帯大手3社は2016年度中に新たに3.5GHz帯の運用を開始し、下り最大速度を370Mビット/秒へ向上する計画だ。

 2016年2月22日から25日にかけてスペイン・バルセロナで開催された「Mobile World Congress 2016」では、現行のLTEを発展させ、さらなる高速化である1Gビット/秒を実現するデモが各所で見られた。

写真1●最大1Gビット/秒に対応したモデムチップ「Snapdragon X16 LTE Modem」を発表した米クアルコム
写真1●最大1Gビット/秒に対応したモデムチップ「Snapdragon X16 LTE Modem」を発表した米クアルコム
[画像のクリックで拡大表示]

 例えば米クアルコムは会期直前に、下り最大1Gビット/秒をサポートするCat-16(下り)、Cat-13(上り)対応のチップセット「Snapdragon X16 LTE Modem」を発表(写真1)。こちらのモデムを使った試作機を使い、スウェーデン・エリクソンや中国ファーウェイが、それぞれの基地局を使って1Gビット/秒近い速度を実現するデモを見せた(写真2写真3)。

写真2●スウェーデン・エリクソンがクアルコムのモデムを使って実施した最大1Gビット/秒のデモ
写真2●スウェーデン・エリクソンがクアルコムのモデムを使って実施した最大1Gビット/秒のデモ
[画像のクリックで拡大表示]
写真3●中国ファーウェイがクアルコムのモデムを使って実施した最大1Gビット/秒のデモ
写真3●中国ファーウェイがクアルコムのモデムを使って実施した最大1Gビット/秒のデモ
[画像のクリックで拡大表示]

 各社のデモは、4×4 MIMO 256QAMの多値変調方式を使った20MHz幅のCCを2つ、2×2 MIMO 256 QAMの変調方式を使った20MHz幅のCCを1つ組み合わせた3CCキャリアアグリゲーションで構成していた。1つのCCだけ2×2 MIMO構成となっているのは、Snapdragon X16が最大10本のストリームまでのサポートとなっているためだ。

 1Gビット/秒実現のポイントは、256QAMの多値変調方式のサポートである。もっとも256QAMは、一般的な64QAMの多値変調方式と比べて約1.33倍高速化できるが、電波状態がよくなければ実現は難しい。実はこの256QAMの多値変調の実現の裏に、基地局側の新たな機能のサポートがある。

 例えばエリクソンは、この256QAM実現のために基地局側で「リーンキャリア」という独自機能を実装した。現状のLTEは、実際に通信していない基地局から端末に向けて参照信号(Reference Signal)が送信されている。LTEの参照信号には無駄が多いと言われ、隣接する基地局からの参照信号が実際に通信を行っている基地局と端末間の通信に対し、干渉を起こすケースがある。このような干渉が生じると、256QAMのような多値変調は実現が難しくなる。

 エリクソンが実装したリーンキャリアは、このように無駄が多いLTEの参照信号を最大80%削減し、干渉を軽減することで256QAMのような多値変調を実現しやすくした。実際、エリクソンのブースでは、このようなリーンキャリアの効果を示すデモも見られた(写真4写真5)。

写真4●エリクソンによるリーンキャリアのデモ。隣接セルからの干渉がある場合、256QAMの多値変調が実現できず、スループットは向上できない。
写真4●エリクソンによるリーンキャリアのデモ。隣接セルからの干渉がある場合、256QAMの多値変調が実現できず、スループットは向上できない。
[画像のクリックで拡大表示]
写真5●基地局側をリーンキャリア対応とし、参照信号による干渉を軽減することで256QAMの通信が可能に。スループットを向上できる。
写真5●基地局側をリーンキャリア対応とし、参照信号による干渉を軽減することで256QAMの通信が可能に。スループットを向上できる。
[画像のクリックで拡大表示]

 リーンキャリアの考え方は、現在3GPPで進んでいる第5世代移動通信システム(5G)の標準化にも提案予定という。ただエリクソンによると、2016年後半にリリースする同社の基地局用ソフトウエア「Network SW16B」にてこのリーンキャリアの機能を実装し、5Gを待たず市場導入を図る。