ソフトバンクが今、ブロックチェーンについて、一風変わった技術検証を進めている。ブロックチェーンを応用した国際募金プラットフォームのプロトタイプを開発するため、競技プログラミングサイト「Topcoder」で、技術コンテストを実施しているのだ。

 なぜソフトバンクは、ブロックチェーンの応用先として「国際募金」に着目したのか。Topcoderを使ってどのようにシステム開発を進めるのか。ソフトバンク 情報システム統括 ITサービス開発本部 副本部長の福泉武史氏と、ITサービス開発本部 BRM推進室 担当課長の坂口卓也氏に聞いた。

(聞き手は浅川 直輝=日経コンピュータ


いつごろからブロックチェーンの技術開発を検討していたのか。

 2年くらいから前から調査研究を進めていた。ブロックチェーン技術の本質とは何なのか。情報を収集しながら考えるうちに、「まずはソフトウエアとして実装し、自分でいじってみないと分からない」と考えるようになった。

 そこで、実際にブロックチェーン応用の事例を一つ作ることができないかと、2015年夏から検討を始めた。この検討の中で、我々が事例として狙いを定めたのが「国をまたがった募金」だった。この応用例に向け実際にアプリケーションのプロトタイプを実装し、運用する中で、ブロックチェーンの本質をとことん深く研究してみたい、と考えている。

なぜ「国際募金」に注目したのか。

 ブロックチェーンの本質を表すキーワードを一つだけ挙げるとすれば、良く言われる「Distributed(分散化)」というよりは、「Decentralized(非中心化)」だろうと考えている。ブロックチェーンのP2Pネットワークは、誰かが集中管理する必要がない。ノードを立てれば、等しくネットワークに参加できる。

 この特徴から、ブロックチェーンで寄付ネットワークを構築すれば、容易に国境をまたいで、複数の事業者でネットワークを運用できる。

 最初に寄付ネットワークを運用するのは一社だけかもしれないが、その一社がシステムを集中管理する形で他の企業にネットワークを広げるのではなく、どの事業者も後から同じ立場でネットワークに参加できる、ブロックチェーンならではのオープンプラットフォームを構築できるのでは、と考えた。

 どうせやるからには、世界から「おおっ」と驚かれるような、インパクトがあるものをやりたかった。

国際寄付の枠組みで、ブロックチェーンをどのように活用するのか。

 国や通貨をまたがる寄付をする場合、これまでは銀行間の国際決済を利用する必要があった。いくつもの組織の間をお金が動くため、多額の決済手数料が必要になっていた。ブロックチェーン技術を使って直にトークンをやりとりすることで、リアルにお金を動かす回数を減らし、結果として手数料を安く抑えられるとみている。

 このほか、ブロックチェーンの機能として、一定の条件で取引を自動実行するスマートコントラクトの導入も検討している。例えば「寄付先の団体が(中間目標の達成など)一定の条件を満たしたと認められた場合、募金が自動的に実行される」といった機能を実現できそうだ。

国際寄付プラットフォームの実現に向けた課題は。

 今後、検討が求められる課題の一つに、ブロックチェーンの取引情報にどのような情報を書き込むか、がある。匿名での募金を前提とするか、必要に応じてパーソナル情報も送信できるようにするかなど、用途に応じて検討することになるだろう。

 我々が構築するブロックチェーンは、パブリック型とコンソーシアム型の中間に当たる。「寄付する人」は仮名でもそれほど問題ない一方、「寄付を受け取る団体」は、何らかの許諾を受けた(permissioned)団体でなければならない。寄付を受け取る団体については、口座に相当するアドレスと受け取り手を確実にひもづけ、徹底して情報を公開する必要があるだろう。

今後の開発計画を教えて欲しい。

 今回の開発では、Topcoderを通じ、コードを実装する技術者を募集している。我々はまず、国内ブロックチェーン技術開発企業のコンセンサス・ベイスと共同で、バックエンドのブロックチェーンおよびチェーンと接続できる「プロトタイプのプロトタイプ」を開発、公開し、応募した技術者に仕様を学んでもらっている。最終的には、応募者にアプリケーションのフロントUIの実装やHTML化に挑戦してもらう。

 2016年3月末までに、Topcoder応募者の実装による最初のバージョンを完成させる考えだ。その後、クローズドで運用しながら、引き続き課題を抽出したい。