トヨタ自動車は2016年1月5日(米国時間)、「CES 2016」に合わせて開催した記者会見で同社の人工知能(AI)研究子会社である米Toyota Research Institute(TRI)の体制などを発表。米Googleのロボティクス部門長を務めていたJames Kuffner氏を引き抜いたことなどを明らかにした。

 「ソフトウエアとデータが、トヨタのモビリティ戦略にとって不可欠の存在になる」――。TRIのCEO(最高経営責任者)を務めるGill Pratt氏(写真1)は記者会見でこのように述べ、TRIが米スタンフォード大学や米マサチューセッツ工科大学(MIT)などと提携して、機械学習やビッグデータを核とするAI研究を推進する方針を説明した。

写真1●米Toyota Research Institute(TRI)のGill Pratt CEO(最高経営責任者)
写真1●米Toyota Research Institute(TRI)のGill Pratt CEO(最高経営責任者)
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 トヨタは2015年11月にTRIの設立を発表し、AIの研究開発に5年間で10億ドルを投じると発表したばかり。米国防高等研究計画局(DARPA)でロボット競技会「DARPA Robotics Challenge」のプロジェクトマネジャー(PM)を務めたPratt氏が率いるTRIは、ロボティクスやAIの有力研究者を精力的に集めている。

ロボット用のクラウドを開発

 冒頭に紹介したJames Kuffner氏は、自動運転技術の研究で知られる米カーネギーメロン大学からGoogleに転じ、Googleの自動運転車開発プロジェクトを立ち上げたことで知られるロボティクス分野の有力研究者だ。TRIではクラウドコンピューティングに関する研究を統括する。

 Kuffner氏は近年、米カリフォルニア大学バークレー校(UCバークレー)のロボット研究者であるKen Goldberg教授らと「クラウドロボティクス」に関連する研究を進めていた。クラウドロボティクスとは、ロボットに必要な画像認識機能などをクラウドのサービスとして提供する技術を指す。Kuffner氏がTRIで担当するクラウドコンピューティングの研究開発には、このような機能の開発が含まれる可能性が高い。

 このほか外部から招聘した研究者として、DARPAのPMを務めていたEric Krotkov氏がTRIのCOO(最高執行責任者)に、米Bell Labsの部門長やDARPAのPMを務めていたLarry Jackel氏が機械学習研究のアドバイザーに、MIT教授のJohn Leonard氏が自動運転の研究責任者に、MIT助教授のRuss Tedrake氏がシミュレーションと制御の研究責任者に就任した(写真2)。

写真2●TRIの主な責任者
写真2●TRIの主な責任者
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不確かな状況に対応できる人工知能を開発

 有力研究者を集めたTRIが目指すのは、「高速道路のような運転が簡単な場面でだけ自動運転を実現する技術ではなく、運転が難しい場面でも人間の助けになるような技術の実現」(Pratt氏)だ。Pratt氏は記者会見で、スタンフォード大学やMITと連携して研究しているテーマを二つ紹介した。

 スタンフォード大学と連携して研究しているのが「Uncertainty on Uncertainty(不確実な状況での不確実性)」というテーマで、予期せぬ状況下においても危険を回避できるような人工知能を、機械学習をベースに開発するとしている。

 MITと連携して研究しているのは「The Car Can Explain(自分で説明できる自動車)」というもので、自動車が予期せぬ行動を取った場合に、何が起きたのか、なぜそのような行動を取ったのかを自動車が自ら説明できるような人工知能を開発する。

 人工知能以外の研究としてPratt氏は、材料分野の研究開発に機械学習を適用する取り組みを挙げた。一般に「マテリアルズインフォマティクス」と呼ばれる取り組みで、既に存在する化合物の構造を機械学習することで、その構造に似た化合物を探し出すパターンを生成する。このパターンを使うことで、無数にある化合物の中から、自動車の強度を上げながら重量を減らせる化合物や、燃料電池の効率を上げる化合物などが見つけ出せる可能性がある。