写真●金融庁総務企画局信用制度参事官の佐藤則夫氏
写真●金融庁総務企画局信用制度参事官の佐藤則夫氏
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 「IT業界、金融業界の新しい挑戦を金融庁はサポートしていく」――。金融庁総務企画局信用制度参事官の佐藤則夫氏は2015年12月8日、日経BPイノベーションICT研究所が主催した「金融ITイノベーションフォーラム2015」の基調講演でこのように語り、FinTechの推進を後押しする考えを示した(写真)。

 講演の前半で佐藤氏は、金融庁による取り組みを紹介した。金融庁は今年9月に「平成27事務年度金融行政方針」をまとめている。佐藤氏によると、「制度の企画・立案まで含めて金融庁としての全体方針を策定したのは初の試み」だという。同方針のなかで金融庁は、テクノロジーを駆使した新しい金融サービスであるFinTechの動向を注視していく旨を明確にしている。佐藤氏は、「言い方は悪いかもしれないが、今は雨後の竹の子のように新サービスが出てきている。しかし、ここから太い竹に育つものが出てくる可能性は高い」と語る。

 金融庁がFinTechに注目し始めたのは2014年のこと。「決済業務等の高度化に関するスタディ・グループ」を発足し、決済手段などが変化するなか、どのような制度整備が求められるかの研究が必要と判断したのがきっかけだ。2015年4月には「中間整理」として報告書にまとめ、その後はワーキング・グループ(WG)に格上げして議論を続けている。

 佐藤氏はFinTechの勃興を、単に新しい金融サービスが続々と登場している現象としてではなく、金融業界の構造的変化をも含んでいると認識している。「銀行と顧客の関係は今まで1対1がベースだった。しかし少なくとも顧客接点の部分について、銀行を介することが少なくなりつつある」と佐藤氏は指摘する。同氏が代表的なサービスとして挙げるのが、スマートフォンに挿すことで決済ができるドングル型のカードリーダーや、口座番号を知らなくても送金ができるモバイルペイメントなどの領域だ。

 EC(電子商取引)モール事業者が手掛けるモール出店者への融資サービスにも注目している。「銀行業務のど真ん中で、銀行とサービスとのアンバンドル化は進んでいる。こうした動きは悪いことではないが、銀行ビジネスをどう考えるべきかは大きな問題意識として持っている」と佐藤氏は語る。

 金融庁は2015年、決済業務高度化WGのほかに「金融グループを巡る制度のあり方に関するワーキング・グループ」も発足。邦銀が抱えるIT投資の課題や外部のIT企業などと提携する際に障壁となる出資規制の問題などについて、規制の在り方を審議している。

 「二つのWGでの議論は佳境に入っている。今後は取りまとめに入る予定だ。すぐに手を打てるものについては、制度変更も含めて考えていく」(佐藤氏)という。

規制緩和だけがサポートではない

 講演の後半ではFinTechをサポートしていく姿勢を改めて示した。佐藤氏は、「言葉だけでなく実態として成長しているサービスが存在するからFinTechが脚光を浴びていると認識している」としたうえで、「ITと金融業界の新しい挑戦を継続的にサポートしていく」(佐藤氏)と語った。

 ただしサポートとは、規制緩和のことだけを指すわけではないという。佐藤氏が印象的だったとして披露したのは暗号通貨を巡る議論。暗号通貨の取引所運営者と話をした際、「最低限のルールや財務規制は必要という議論が出てきた。ある程度の規制があった方が利用者の信頼につながり、イノベーションが進む面もある」と佐藤氏は話す。「FinTechのサービスのなかには有用なものだけでなく、問題をはらむものもあるだろう。ビジネス界と一緒になって見極めなければならない」(佐藤氏)。

 佐藤氏は、「FinTechはテクノロジーだけで生まれるものではない。優れたアイデアも必要。金融とIT、それぞれの専門家がコラボレーションすることが欠かせない」という。「もしもここに障壁があるのだとすれば、環境を整備するのは我々の仕事だ」と佐藤氏は語り、講演を締めくくった。