東京・目黒のウエスティンホテル東京で2015年11月25日に開催された「イノベーターズサミット」(日経BP社 日経ITイノベーターズ主催)。イベントの締めくくりとして、一橋大学大学院国際企業戦略研究科の楠木建教授が登壇し、「イノベーションの本質」について講演した。
「これはみなさんにとってイノベーションでしょうか?」
楠木教授の講演はスーパーコンピュータの「京」や「iPS細胞」、マツダの「SKYACTIV TECHNOLOGY」、米アップルの「iPhone 6s」などいくつかの事例を挙げ、会場の反応を確認するところから始まった。イノベーションの定義が人によってあいまいなことを確認するためだ。
楠木教授は何か新しいことを始めることは決してイノベーションではなく、そう自らが述べている企業ほどイノベーションから遠ざかってしまう皮肉について語り始めた。
「イノベーションとは進歩のことではない」(楠木教授)。イノベーションとは、ヨーゼフ・シュンペーターの言葉を借りると「非連続性」であり、ピーター・F・ドラッカーは「イノベーションとはパフォーマンスの次元が変わること」と説いた。
楠木教授は次元が変わることの説明として、19世紀に活躍した米バージニア州の農夫、サイラス・マコーミック氏が起こしたイノベーションを挙げた。手作業が中心だった当時の農業において草刈り機を普及させた人物だが、彼が起こしたイノベーションは「分割払い」という現在の割賦販売の基礎となる方法を作ったことだった。お金がなければ刈り取り機が買えず、刈り取り機がなければ十分に収穫できない。収穫ができないからお金がないという設備投資のジレンマから農夫を解放させる仕組みだった。