富士通は2015年11月10日、タイ・バンコクでプライベートカンファレンス「Fujitsu Asia Conference」を開催した。ベトナム、マレーシアに続く第3弾で、会場にはタイにおける富士通の顧客企業やパートナー企業を中心に、150人近くの聴講者が集まった。

 カンファレンスでは、古川栄治・富士通システムズビジネス(タイランド)社長、富士通の斎藤淳一・執行役員Asiaリージョン長があいさつ。タイ商工会大学 経済・事業予測センター長リサーチ副局長のタナワット・ポンウィチャイ助教授のゲスト講演に続けて、エグゼクティブセッションに富士通の阪井洋之・執行役員常務グローバルマーケティング部門長、ジェネラルセッションに須賀高明IoTビジネス推進室室長が登壇した。

写真1●富士通の斎藤淳一・執行役員Asiaリージョン長
写真1●富士通の斎藤淳一・執行役員Asiaリージョン長

 斎藤Asiaリージョン長は、あいさつの中で、ASEANにおけるタイの地理的な重要性や日本との関係の深さなどを挙げ、ともにタイの発展に努めようとの姿勢を示した(写真1)。加えて、そうした取り組みの例として、チュラロンコン大学附属模範学校の教育改革への共同プロジェクトを紹介した。生徒一人ひとりが使えるよう富士通がタブレット端末を提供したもので、先生や生徒・児童の間の双方向コミュニケーションの活性化と、新たな教育スタイルの実現を目指している。

写真2●タイ商工会大学 経済・事業予測センター長リサーチ副局長のタナワット・ポンウィチャイ助教授
写真2●タイ商工会大学 経済・事業予測センター長リサーチ副局長のタナワット・ポンウィチャイ助教授

 ゲストとして壇上に立ったポンウィチャイ氏は、「Inside Thailand Economiy」と題して講演。様々な数字を引用しながら、世界経済とタイ経済の傾向についての考察を述べた(写真2)。同氏によると、タイの経済成長率は4%に届かず、決して好調とはいえない。それでも、タイはセブン-イレブンの出店数が日本に次ぐ世界2位になっていることなどから分かるように消費が盛んであること、観光産業は相変わらず有望であること、タイ政府がインフラ投資など経済を促進する財務政策を打ち出していることなど、安心できる要素があると指摘。タイ経済は比較的安定しているとした。さらに、今後はIoT(Internet of Things)、4G(第4世代移動体通信)などの技術の普及を背景として、デジタルエコノミーに向かっていくとの方向感を示しつつ、より良い経済環境を一緒に実現していこうと呼びかけた。

IoT✕ビッグデータ✕“共創”がもたらすインパクトを強調

 次にエグゼクティブセッションで壇上に立った阪井氏は、IoT、ビッグデータを活用したデジタル変革が様々な領域で起こっていると指摘(写真3)。それを支える「Human Centric Innovation」の考え方を説明しつつ、具体例を挙げて、富士通の事業やソリューションを紹介した。

写真3●阪井洋之・執行役員常務グローバルマーケティング部門長
写真3●阪井洋之・執行役員常務グローバルマーケティング部門長

 まず例に挙げたのは、車の位置、時刻、速度などのデータを収集して分析し、渋滞状況や目的地までの所要時間などの情報を生成、提供する位置情報クラウド「SPATIOWL」。インドネシアの高速道路向け交通情報提供や、フィリピンの電動三輪タクシー向け情報提供などで採用されている。シンガポールでは、シンガポール科学技術庁、シンガポール経営大学とともに、人口過密や交通渋滞の問題解決、資源の有効活用など、SPATIOWLを活用した社会課題解決の共同研究を進めている。

 続けて阪井氏は、同社が顧客とイノベーションの「共創」に取り組んだ例を披露。その一つは、オムロンの主力工場における製造プロセス改善への取り組みである。多数のセンサーを使ってラインの流れを見える化し、収集データを解析してプロセス改善につなげた。ほかに、スマートアグリカルチャー事業や、東京大学先端科学技術研究センター、興和と取り組むIT創薬なども列挙。富士通が、各分野において、顧客のパートナーとして技術や人材を提供していると訴えた。

写真4●須賀高明IoTビジネス推進室室長
写真4●須賀高明IoTビジネス推進室室長

 最後に登壇した須賀氏は、「ビジネスイノベーションを加速するIoTソリューション」と題して講演した(写真4)。まず冒頭に、既にあるIoTの活用例を紹介した。RFIDを使った部品のトレーサビリティ管理、バスの運行やごみ回収など都市課題の解決、ICTを活用した農業、トラックの運行状況や渋滞状況の見える化などである。

 そのうえで須賀氏は、様々な業界において、IoT✕ビッグデータが産業構造に変化をもたらすと指摘。(1)新商品・サービスの開発、(2)従来事業の変革・効率化、(3)社会的課題への対応といった分野で、IoTによりイノベーションがもたらされる可能性があるとした。加えて、その裏付けとして同氏は、IoTビジネスの例を5つ挙げた。具体的には、

  • 室温の自動調整を可能にするスマートサーモスタット「Nest Thermostat」
  • 同社工場における製造ラインの見える化とそれに基づいたプロセス改善
  • 同社島根工場の製造工程でのReject品リペア状況の可視化による出荷工数低減
  • 小売現場での動線分析による消費・購買行動の把握
  • 走行データに基づいた精度の高い道路整備計画、施策評価、および急ブレーキ多発地点などを活用した安全運行管理支援
である。

 最後に須賀氏は、富士通が最終的には人間に価値を提供する”ヒューマンセントリック”な世界の実現を目指しており、IoTに関しても同じの考えに基づき「ヒューマンセントリックIoT」というコンセプトを打ち出していると説明。その実現に向け、「パートナーや顧客との“共創”をはたらきかけていく」としめくくった。