写真●D-Wave 2Xの超伝導回路
写真●D-Wave 2Xの超伝導回路
出典:D-Wave Systems
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 カナダの商用量子コンピュータメーカーであるD-Wave Systemsは2015年11月11日(現地時間)、米ロスアラモス国立研究所(Los Alamos National Laboratory、LANL)がD-Wave製量子コンピュータ「D-Wave 2X」の導入を決めたと発表した。LANLは米エネルギー省などと連携して、「量子アニーリング」を使用するアプリケーションの能力を検証する。

 LANLのJohn Sarrao副所長はD-Waveのプレスリリースに寄せたコメントで、同研究所がD-Wave 2Xを導入する理由として、集積回路のトランジスタ数が2年ごとに2倍になる「ムーアの法則」の終焉が予測されることと、ムーアの法則に伴ってコンピュータの「消費電力当たりの性能」が指数関数的に向上していくという「デナードスケーリング」と呼ばれる法則が既に過去のものになったことの二つを挙げている。

 Sarrao副所長は「これら二つの法則の終焉は、現在の『伝統的』なコンピューティングの時代が終わることを意味しており、新しい技術やアイデアが求められている」とも述べる。ムーアの法則やデナードスケーリングが有効だった時代は、消費電力を増やさずにコンピュータの性能を向上させることが可能だった。しかしこれらの法則の終焉に伴い、LANLが使用するようなスーパーコンピュータの消費電力は近年大幅に増加している。

 例えば、理化学研究所のスーパーコンピュータ「京」は「TOP500リスト」のベンチマークを計測する際に、一般家庭の3万世帯分に相当する12.6メガワット(MW)もの電力を消費した。スーパーコンピュータの消費電力をこれ以上増やすのは困難になっている。

 LANLは消費電力問題を解消する次世代コンピューティング技術の候補として、D-Waveの量子コンピュータの評価を開始する。量子コンピュータが同研究所に納入されるのは2016年初めの予定。

 東京工業大学の西森秀稔教授と門脇正史氏が提唱した理論「量子アニーリング」を採用するD-Waveの量子コンピュータは、超伝導回路の量子ビット(「0」と「1」の情報を重なり合った状態で保持できるビット)を使用して、「組み合わせ最適化問題」を解く(関連記事:驚愕の量子コンピュータ)。

 超伝導回路である量子ビット自体は電力を消費しないため、D-Waveを使って計算を行った場合の消費電力は、超伝導回路を絶対零度(摂氏マイナス273.15度)に限りなく近い温度にまで冷やす「希釈冷凍機」や、データの入出力に使用するパソコンが消費するものに限られる。スーパーコンピュータを使用して組み合わせ最適化問題を解くのに比べて、消費電力を大幅に削減できる可能性がある。