写真1●国立天文台 天文データセンターの大江 将史助教
写真1●国立天文台 天文データセンターの大江 将史助教
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写真2●左の円グラフが満足度の調査結果。青色の方が評価が高い。右の一番下の棒グラフは、次回のWSJでWi-Fi環境が必要が必要かという調査結果。白色の方が、積極的に望んでいる。
写真2●左の円グラフが満足度の調査結果。青色の方が評価が高い。右の一番下の棒グラフは、次回のWSJでWi-Fi環境が必要が必要かという調査結果。白色の方が、積極的に望んでいる。
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写真3●無線LANの5GHz帯のチャネルは、国によって設定が異なる。このため、端末によって、見えるAPが異なる。
写真3●無線LANの5GHz帯のチャネルは、国によって設定が異なる。このため、端末によって、見えるAPが異なる。
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 国立天文台 天文データセンターの大江 将史助教(写真1)は、「世界スカウトジャンボリー」の会場全域をカバーする屋外Wi-Fiを構築した経験から、「大規模な屋外Wi-Fiは、チャネルの有効活用やエアータイムの管理などによって限られたリソースを効率的に利用しなければ成り立たない」という。展示会「ITpro EXPO 2015」内で開催したセミナーでこう紹介した。

 世界スカウトジャンボリーは、世界のボーイスカウト・ガールスカウトが集い、約2週間近くテントなどで過ごして交流するイベント。大江氏は、2015年8月に開催された第23回世界スカウトジャンボリー(23WSJ)の参加者、3万3000人が利用する無線LAN環境の構築を担当した。

 大江氏は、23WSJの参加者の約半数に当たる1万5000台の端末が接続されると予測。限られた予算で実現するために、メリハリを利かせた設計を目指したという。食料の販売などを行う大型テント内(屋内)では性能を優先し、参加者が寝泊まりする小型テント向け(屋外)にはカバレッジを優先する、という方針を立てた。実際は、2万台近い端末がつながったものの、インターネット接続の契約帯域ギリギリに収まった。利用者に対するアンケートでは、半数以上にポジティブな評価をもらい、次回WSJでもWi-Fi環境は必要だという意見が大多数を占めたという(写真2)。

 設計時のポイントで挙げたのが、冒頭で紹介した「限られたリソースの効率な利用」である。まずは、無線LANで利用できる2.4GHz帯、5GHz帯という帯域をなるべく広く使い、多くのチャネルで通信することが最初の解決策になるとした。ただし、無線LAN以外の用途によく使われる2.4GHz帯は混雑しやすいので、5GHz帯を積極活用したほうがよいという。

 次に無線LANアクセスポイント(AP)は、ある端末が通信する時間(エアタイム)は別の端末が通信できなくなるため、低速な端末にエアタイムが占有されない対策が必要だとした。具体的には、高速な通信規格であるIEEE 802.11n/acを採用し、低速な11b/gを利用禁止にする。

 このほか、AP1台当たりのカバレッジ範囲を小さくしてチャネルを有効活用したり、無線LAN以外の2.4GHz帯の電波を使う機器を削減したりしたという。

 屋外Wi-Fi固有の問題として、電源確保と温度管理がある。AC電源を引き回すと設置コストのアップにつながるため、ネットワークケーブル経由で給電できるPoEを積極的に利用した。温度管理では、日よけなどで工夫したものの、ネットワーク機器の温度が通常稼働が難しい75度に達するケースが発生してしまい、今後の課題とした。また、海外からの参加者が多いイベントだったため、持ち込んだ端末を購入した国によって利用チャネルが異なる。このため、チャネル設定では参加者の国なども考慮する必要があるとした(写真3)。

 最後に、今後により高速なIEEE 802.11ac Wave2が主流になることで、リソースの有効活用が進み、今回のような大規模Wi-Fi構築にも役立つと説明して、講演を締めくくった。