写真●道路に埋め込んだ磁気センサーで駐車空きスペースを最適化する「スマートサンタンデール」
写真●道路に埋め込んだ磁気センサーで駐車空きスペースを最適化する「スマートサンタンデール」
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 東京ビッグサイトで開催中の企業向けITソリューションの総合展示会「ITpro EXPO 2015」で2015年10月1日、日経BPクリーンテック研究所の藤堂安人主席研究員が講演し、製造業を中心に関心が高まっているIoT(Internet Of Things)は今後、社会インフラでの応用が本命になると説明した。また、「経済危機があったスペインは国家戦略としてIoTのベンチャー企業を育てている」と述べた(写真)。

 欧米ではエネルギーを効率的に利用する「スマートグリッド」から発展した「スマートシティ」が、IoTでさらに進化する流れがあるという。IoTは社会が抱える課題を解決するための利用が進み、利用分野は渋滞や温暖化の防止、ゴミ処理の最適化、災害防止など多岐にわたるという。センサーで集めた情報をインターネットを介してクラウドに集約し、データを分析して社会に能動的に働きかけて課題を解決する動きが広がっている。

 こうした中で日経BPクリーンテック研究所は、欧米100社ほどの事例を基に先進動向を調査した。藤堂主席研究員によると、欧米でビジネスとして活発化しているのは8分野ある。このうち多いのは「スマートモビリティ」と呼ばれるもので、自動車など交通の流れをモニタリングして、信号を制御して渋滞を緩和するというものだ。日本でも一部実験的に行われているが、欧米では町全体を制御する事例があるという。

 さらに、駐車空きスペースの情報を収集してドライバーに提供する「スマートパーキング」や、欧米では自治体が管理することが多い街灯を制御する「スマートライティング」、ゴミ箱にセンサーを取り付けてゴミ収集車が最適なタイミングで回収する仕組みも登場。各家庭のエネルギー機器をIoTで管理したり、森林にセンサーを取り付けて環境保護や災害対策、犯罪防止にも役立てる動きもあると述べた。

 欧米ではこうした仕組みを自治体が全面的にバックアップするケースが多く、さまざまな企業がビジネスチャンスを求めて参入している。大手IT企業では米シスコシステムズや米IBM、独SAPなどのほか、スペインではテレフォニカといった通信事業者も参入。こうした企業は情報を収集する上流段階や、分析技術で情報を扱うプラットフォーム全体を押さえる戦略という。また、センサーを組み込む仕組みや情報プラットフォームを手がけるベンチャー企業も数多く参入しているという。

 藤堂主席研究員は典型例として、スペインの事例を紹介した。代表的なIoTとして知られるプロジェクト「スマートサンタンデール」は、EU(欧州連合)から補助金を受けてシステムを構築。通信機能付きのセンサーをバスに取り付けて情報を集約して交通を最適に制御して、自治体が管理する路肩の駐車場に磁気センサーを付けて空きスペースを最適に管理して徴収料金を増やしているという。

 また、道路の街灯を制御する街灯を制御する「スマートライティング」で、通行者がいるときだけ明るく照らして省エネルギー化。スペインの別の都市であるバレンシアでは、300キロメートルに及ぶ主要幹線道路にカメラや交通センサーを取り付けてIoTで管理。交通事故があれば警察に連絡したり、情報を集約して信号を制御して、渋滞情報をさまざまな形で市民に提供している。

 省エネルギー化のプロジェクトも成果を上げている。デンマークでは工業団地の区画をセンサーや照明メーカー25社に開放した実証プロジェクトで、LED照明とIoT制御を組み合わせて全体で70~80%の省エネルギー化して注目されているという。欧米では発送電分離とIoTによって、電力制御信号を基に入札を行って10秒以内に最も安い価格で電力を供給するビジネスも登場している。

 日経BPクリーンテック研究所はこうした欧米の事例を調査レポート「IoTプロジェクト総覧<社会インフラ編>」にまとめている。藤堂主席研究員は日本でビジネスチャンスを狙う企業などは参考にしてほしいと締めくくった。