カナダの商用量子コンピュータメーカーであるD-Wave Systemsは2015年8月20日(現地時間)、1000個を超える「量子ビット」を搭載する量子コンピュータの新モデル「D-Wave 2X」の出荷を開始したと発表した。同社はD-Wave 2Xが「組み合わせ最適化問題」を現行のコンピュータ(量子コンピュータではない「古典的コンピュータ」)よりも「最大で600倍高速」に解けると主張している。

 D-Wave Systemsは、東京工業大学の西森秀稔教授と門脇正史氏が提唱した理論「量子アニーリング」に基づく量子コンピュータを、2011年から販売している(関連記事:驚愕の量子コンピュータ)。これまでの「D-Wave Two」が「0」と「1」の情報を重なり合った状態で保持できる量子ビットを512個搭載するのに対して、今回発表したD-Wave 2Xでは量子ビットを1000個以上搭載する。

超伝導回路を12万8000個集積

 D-Wave 2Xのプロセッサは超伝導現象を使用して量子計算を実行する。プロセッサはニオブ(Nb)という超伝導材料で作られており、「ジョセフソン接合」と呼ばれる超伝導回路を12万8000個集積して、1000個を超える量子ビットを実現した(写真)。D-Wave Systemsはこのプロセッサを「商用の超伝導回路として最も集積度が高い」と主張している。

写真●量子ビットを1000個以上搭載するD-Wave 2Xの「Washington」プロセッサー
写真●量子ビットを1000個以上搭載するD-Wave 2Xの「Washington」プロセッサー
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 超伝導現象を使用するD-Wave 2Xのプロセッサは、絶対零度(摂氏マイナス273.15度)に限りなく近い超低温で稼働する必要がある。これまでのD-Wave Twoは20ミリケルビンでプロセッサを稼働させていたのに対して、D-Wave 2Xは15ミリケルビンというより低い温度でプロセッサを稼働する。より低い温度で稼働させることなどにより、D-Wave 2XはD-Wave Twoに比べてノイズを50%削減しているという。

 D-Wave Systemsは、量子ビットを増やしたり、量子ビットのノイズを減らしたりすることによって、同社の量子コンピュータの性能が大きく向上したと主張している。ここで言う性能とは、複数ある組み合わせの中から、最も条件に合う組み合わせを選び出す「組み合わせ最適化問題」を解く時間の短さのことである。D-Waveの量子コンピュータは、組み合わせ最適化問題を解くための専用機であるからだ。

複雑な構造の問題で性能差が広がると主張

 D-Wave Systemsの主張では、D-Wave 2Xが組み合わせ最適化問題を解く速度は、現行のコンピュータ(古典的コンピュータ)において最も洗練された解法を使って組み合わせ最適化問題を解くのに比べて、最大で600倍高速であるとしている。またD-Wave 2Xと古典的コンピュータの性能差は、組み合わせ最適化問題の構造がより複雑な場合ほど、大きくなる傾向があると主張している。

 D-Wave Systemsは同時に、D-Wave 2Xを使って組み合わせ最適化問題の近似解を算出する速度は、厳密解を算出するよりも最大で100倍高速になると主張した。D-Wave Systemsは2015年8月上旬に東京工業大学で開催した量子アニーリングの国際シンポジウム「New Horizons of Quantum and Classical Information 2015(NHQCI2015)」でも、厳密解ではなく近似解を求める手法の優位性を主張していた(関連記事:道半ばの量子コンピュータ、実性能でシリコンチップを越えられるか)。

■変更履歴
当初の記事では「ジョセフソン接合」を「ジョセフソン結合」と誤って表記していました。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2015/08/22 07:00]