写真1●日本IBM 東京基礎研究所 IBMフェローの浅川智恵子氏が実演した。スマートフォンは腰に装着。周囲の音も聞き取りやすいように、ヘッドホンは耳をふさがない骨伝導タイプを用いた
写真1●日本IBM 東京基礎研究所 IBMフェローの浅川智恵子氏が実演した。スマートフォンは腰に装着。周囲の音も聞き取りやすいように、ヘッドホンは耳をふさがない骨伝導タイプを用いた
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写真2●ナビゲーションシステムの構成
写真2●ナビゲーションシステムの構成
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写真3●屋内のナビゲーションもできる
写真3●屋内のナビゲーションもできる
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 清水建設は2015年7月28日、日本IBMと共同で、従来より高い精度で屋内/屋外の区別なく歩行者を案内できるナビゲーションシステムを開発したと発表した。空間情報データベースの技術を持つ清水建設と位置測定や音声対話などの開発に力を入れる日本IBMが、互いの強みを持ち寄り実現。視覚障害者の歩行補助や高齢者や外国人旅行者などの案内への応用を視野に入れる。早ければ2018年の実用化を目指す。同日、清水建設の研究所でナビゲーションのデモを披露した(写真1)。

 位置の特定やナビゲーションには、スマートフォンを利用する(写真2)。加速度センサーなどスマートフォンに搭載された各種センサーと、屋内外に取り付けたビーコンからの情報やGPS情報などを基に、現在位置を特定する。

 この位置情報と、「空間情報データベース」と呼ぶ地図データを重ね合わせて、ナビゲーションを行う。空間情報データベースには、屋内外の構造物の緯度や経度、階段の段差や勾配、手すりの位置などの情報が格納されており、歩行者の位置に応じて音声で案内する。「手すりに沿って建物入り口まで20メートル進みます」「直進3メートルで階段を上り2階に行きます」「階段はまっすぐで34段、途中に踊り場が1カ所あります」などの詳細な案内が可能だ。「入り口手前にフロアマットがあります」「2階のフロアはカーペットです」のように、杖や足の裏で感じられる情報も盛り込む。

 現状でも、GPS情報を用いて歩行者をナビゲーションするスマートフォン向けアプリは広く使われている。ただ「GPSでは屋内をカバーできない。また、屋外でも視覚障害者を正確にナビするという意味では不十分」(日本IBM 東京基礎研究所 IBMフェロー 浅川智恵子氏)。そこで、ビーコンや屋内GPSなどを用いて、屋内外を問わずスムーズな案内ができるシステムを開発した(写真3)。

 東京・江東区にある清水建設の技術研究所には、約2000万円を投じてこのシステムの常設体験施設を開設した。5000平方メートルの空間にビーコンを160台、屋内GPSを8台設置する。こうした空間での実証研究を重ねて精度を向上し、将来的には医療施設や商業施設、公共施設などへの導入を目指す。車いすを使っている人に階段を使わないルートを案内する、訪日外国人向けに多言語で街を案内するなどの活用法も考えられるという。

 普及に向けての課題となるのが、空間情報データベースの拡充だ。2015年7月21日に国土交通省が「歩行者移動支援に関するデータサイト」で公開したオープンデータなどを活用する(関連記事:国土交通省、「歩行者移動支援に関するデータサイト」を開設)。屋内の情報は、各施設の運営者に呼びかけるなどして充実させる。商業施設内の空間情報データを整備/提供することで来場者の動向を把握できるようになり、効果的な販促が可能になるといったメリットを訴求することで、協力を得たいという。