写真●青山学院大学陸上競技部監督の原晋氏(写真:井上裕康)
写真●青山学院大学陸上競技部監督の原晋氏(写真:井上裕康)
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 「能力があるかは二の次。重要なのは、ものごとに立ち向かう姿勢だ」。

 今年の箱根駅伝で、青山学院大学を初優勝に導いた同大学陸上競技部監督の原晋氏は、2015年7月8日、東京・千代田のホテルニューオータニで開催中の「IT Japan 2015」(日経BP社主催、10日まで)で、「箱根駅伝革命」と題して講演した(写真)。

 原氏は、陸上選手として中国電力に入社するも怪我で引退、その後の10年を中国電力の社員として過ごした。営業やサービスセンター要員、さらに新規事業の発足など、あらゆる職場を経験したという。「陸上の世界は遅れている。私は会社員の期間が長かったので、そのノウハウを持ち込んだ」と、原氏は語る。

 理想のチームを作り上げるため、原氏は二つのことを徹底してきたという。まず、言葉を大切にすることだ。選手のパフォーマンスは、身体的状態だけでなく、精神状態などの内面的な部分にも左右される。「内面的な能力を引き上げるもの。それが言葉だ」と、原氏は言う。

 原氏はこの指導方針を、「コカ・コーラ作戦」と名付ける。「放っておけばそのままだが、刺激を与えれば一気に吹き出す。選手についても、タイミングを捉えて適切な言葉を投げかければ、120%の力を発揮できる」(原氏)。「指導者の仕事は管理・監督ではない。選手の内面を感じることだ」と、原氏は言い切る。

 箱根駅伝では、10人の選手が1万メートルを28分40秒ほどで走れるかが、チームとしての一つの目標になる。もし、チーム内の下位の選手が30分を切るタイムを出して喜んだとする。今までの指導者は、「そんなタイムで喜ぶな。もっと上を目指せ」と、チーム全体の目標の視点で語ってしまうことが少なくなかったという。しかし、こうした言葉をかけてしまうと、その選手のモチベーションは下がり、「結果としてチームの足を引っ張ることになる」(原氏)。

 もう一つ徹底するのが、試合や練習の目標を選手に対してはっきりと意識させることだ。青山学院陸上競技部では、どんなに小さな試合でも、目標タイムを事前に書かせているという。その際、自己ベストなどの高い目標ではなく、試合の目的や体調などを加味した現実的な目標タイムを設定させる。もちろん、結果も記録させる。目標と結果の乖離を少なくする訓練を続ることで、「箱根という大舞台であろうと、目標通りの走りができる」と、原氏は語る。

 いきなり高い目標を置くのではなく、達成できそうな水準を目安にするのもコツだという。「失敗は成功のもとと言うが、私は半歩先の成功体験の繰り返しこそが重要だと考える」と原氏は主張する。そうすることで、自分自身で成長しようとする意欲が生まれるからだ。