図●仮想データセンター(VDC)の概要(出典:TIS、あくしゅ)
図●仮想データセンター(VDC)の概要(出典:TIS、あくしゅ)
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写真1●TIS、戦略技術センター長の油谷実紀氏
写真1●TIS、戦略技術センター長の油谷実紀氏
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写真2●TIS、戦略技術センター、エキスパートの松井暢之氏
写真2●TIS、戦略技術センター、エキスパートの松井暢之氏
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 TISとあくしゅは2015年5月25日、データセンターを仮想化するオープンソースソフト「仮想データセンター」(VDC、)を共同で開発すると発表した。どのようなクラウド基盤でも、DockerやOpenStackなどのユーザーが指定した共通のAPIを介して操作できるようにする。「特定のクラウドへの依存を解消し、可搬性の高いデータセンターを実現する」(TISの油谷実紀氏、写真1)のが狙い。リリース時期は未定だが、2015年度(2016年3月期)内に何らかの形で成果を公開する。

 VDCは、物理的なデータセンター(パブリッククラウドやプライベートクラウド)の存在を隠ぺいし、この上に仮想的なデータセンターを作成するソフトである。VDCに対して「DockerのAPIを持ったデータセンターを用意せよ」いった指示を出すと、これらのAPIで操作できる仮想的なデータセンターが作られる。こうして作られた仮想的なデータセンターの上に、クラウド運用ソフトからシステムやアプリケーションを配備して使う。

 VDCによって抽象化できるクラウドサービスのリストは未定だが、米Amazon Web Services(AWS)やOpenStackベースのクラウドサービスなど有名なクラウド基盤を操作できるようにする予定。一方、仮想データセンターのAPIとしては、DockerやOpenStackなどのAPIを用意する予定である。

同一のシステム構成をあらゆるデータセンター上に再現

 VDCの開発に当たっては、あくしゅが開発しているクラウド運用ソフト「Wakame-vdc」が備える仮想サーバー管理機能や、Wakame-vdcから派生したエッジオーバーレイ型のネットワーク仮想化ソフト「OpenVNet」を取り入れる。これらを使うと、単一のデータセンター上に様々なサーバーやネットワークを構築できる。今回新たに開発するVDCではこれをさらに進め、データセンターそのものを仮想化して配備できるようにする。

 VDCは、TISのクラウド運用ソフト「CloudConductor」を強化するソフトとしても位置付けられる。そもそもCloudConductorとは、システム設計のパターンを抽象的に記述しておき、同一のシステムを様々なクラウド上に動的に作成するソフトである(関連記事:非機能要求を組み込める独自開発のクラウドオーケストレータ)。ところが、現状のCloudConductorは、システムの配備先がAWSとOpenStackに限られている。VDCを使えば、クラウドへの接続機能をCloudConductorから切り離すことができるので、クラウドサービスに依存しない運用が可能になる。

 TISの松井暢之氏(写真2)は、「サービスの継続性がクラウドサービス選びでは重要になっている」と現状を指摘する。クラウドサービス事業者が倒産してサービスが無くなってしまうこともある。VDCを使うと、「システムのパターンさえ書けば、クラウドサービスごとのAPIの違いをVDCが吸収してくれる」(松井氏)。

 CloudConductorとVDCの活用例の一つとして油谷氏は、DR(災害復旧)を挙げる。あるデータセンターで稼働しているシステムに障害が発生した際に、同一構成のシステムを別のデータセンター上に動的に配備して処理を切り替えるという使い方である。TISが実施した検証実験では、システム停止から6分53秒でシステムを復旧させたという。数分から数十分程度のシステム停止時間が許される使い方であれば、あらかじめDRサイトを用意しておく必要がなくなるという。