東京大学 医科学研究所(東大医科研)のヒトゲノム解析センターは2015年4月1日、ヒトゲノム解析用のスーパーコンピュータシステムを刷新し、次世代システム「Shirokane3」の本格稼働を開始した。システム構築を請け負ったのは日立製作所である。

 Shirokane3は、従来比約10倍となる422TFLOPS(1TFLOPSは浮動小数点演算を1秒間に1兆回実行する能力)の総合理論演算性能を持ち、大量のヒトゲノム解析データを保存可能な大容量ストレージ(稼働開始時点で34.2ペタバイト、今後さらに拡張可能)を搭載。前システム(Sirokane2)と比べて大幅なパフォーマンスアップを果たしている(図1)。

図1●Shirokane3のシステム構成図
図1●Shirokane3のシステム構成図
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 パフォーマンス面だけでなく省電力性能にもこだわっているのがShirokane3の特徴だ。「国内の大学・研究機関のスーパーコンピュータシステムでは初」(東大医科研)という「間接蒸発式冷却装置」(後述)を採用し、省電力性能の目安となるPUE(Power Usage Effectiveness)値は、最新データセンター並みの「1.06」を見込んでいる。

 約24億円もの予算を投じて構築され、ヒトゲノム解析を通じて今後、がんや感染症などの予防・診断・治療法の研究を加速することが期待されているこのShirokane3、本格稼働開始前日となる3月31日午後に取材する機会を得たので、現場の写真を中心にお届けしよう。

外気と混ぜずに循環させる

 まずはShirokane3が設置されているヒトゲノム解析センターの建物背面外部に設置されている間接蒸発式冷却装置からだ。建物に近づいていくと、遠目からでもすぐそれと分かる巨大な冷却装置が2基設置されているのが分かる(写真1)。

写真1●間接蒸発式冷却装置
写真1●間接蒸発式冷却装置
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 間接蒸発式冷却装置とは、建物内の空気が持つ熱(排熱)を水冷式の熱交換器を通して放出するタイプの冷却装置。外から見える巨大な2基の冷却装置カバー内を空気のパイプが通っており、建物内から送られてきた空気は外気と直接混ざることなく、ここで冷やされた後、再び建物内に入って循環する仕組みになっている。