UBICとNTT東日本関東病院は2015年3月16日、入院患者のカルテの内容から患者の転倒や転落の予兆を察知する人工知能を共同開発したと発表した。人工知能は、医師や看護師が電子カルテに記入した患者の様子などに関する文章の内容から、患者の転倒リスクを判断する。高齢患者の転倒は非常に頻繁に発生しており、転倒リスクを予知することで、より適切な対応が可能になるとしている。

 UBICは国際訴訟支援サービスを手がける企業で、弁護士が不正の証拠を探す際に行う業務文書の分類作業をプログラムが機械学習することで、プログラムが弁護士のように不正文書か否かの分類作業ができるというフォレンジック(電子データの収集・解析)ソフトを販売している。このソフトでは弁護士による文書の分類結果を「教師データ」に機械学習をしていた。今回の共同研究は、フォレンジックのために開発した機械学習プログラムを、医療分野に適用したものとなる。

写真1●UBICとNTT東日本関東病院による共同研究の内容
写真1●UBICとNTT東日本関東病院による共同研究の内容
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 NTT東日本関東病院の電子カルテには、患者の様子やそれに対する看護師の所見が自然言語によって記載してある。共同研究ではまず、転倒の主な原因となる「意識障害」が見られる患者7人の電子カルテと、そうではない患者93人の電子カルテ1万6749件を教師データとして機械学習を実施した(写真1)。これによって、電子カルテの文章から意識障害のリスクを判断する「パターン」をプログラムに見つけさせた。続いて、そのパターンを使って電子カルテを分析し直したところ、意識障害が発生している可能性が高い患者のデータを見つけることができたという。

転倒リスクをタイムリーに予知可能に

 NTT東日本関東病院ではこれまでも、看護師が患者に入院や手術のタイミングで聞き取りなどを行って、転倒リスクを評価していた。しかし聞き取りには1人の患者につき2~3分はかかるため、頻繁な聞き取りは不可能だった。NTT東日本関東病院 医療安全管理室の中尾正寿氏は、「従来の聞き取りでは転倒リスクの変化をタイムリーに把握できないことが問題だった」と語る。電子カルテのデータをプログラムが分析する方法であれば、転倒リスクを頻繁にチェックできるようになり、転倒の可能性が高い患者への対応が容易になるという。

写真2●NTT東日本関東病院の落合慈之名誉院長
写真2●NTT東日本関東病院の落合慈之名誉院長
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 2014年までNTT東日本関東病院の院長を務め、現在は名誉院長を務める落合慈之氏(写真2)は、「当院では2000年に電子カルテを導入したが、これまでは過去のデータの活用はうまく行っていなかった」と振り返る。

「かつて、キーワード検索を使って電子カルテデータを活用しようとしたことがあったが、うまく行かなかった。なぜなら『副作用』というキーワードで電子カルテデータを検索しても『副作用があった』『副作用がなかった』の両方の結果が表示されてしまったからだ。UBICが、文章の意味を理解して必要な情報を探し出せる技術を持っていると聞いて、今回の共同研究を思いついた。この技術は、様々な分野に活用可能だと感じている」(落合名誉院長)。

 NTT東日本関東病院では機械学習を採用したシステムを、2015年度内に導入することを目指している。