「多くの企業に、いち早く、IoTをスモールスタートしてほしい」---。2015年3月12日、「Cloud Days Tokyo/ビッグデータEXPO/スマートフォン&タブレット/Security/IoT Japan」のキーノートで、他社に先駆けてIoTビジネスを開始した3社、テラスカイの佐藤秀哉代表取締役社長、ウフルの園田崇代表取締役、フレクトの黒川幸治代表取締役が、「IoTスタートアップの実際」をテーマにパネルディスカッションを行った(写真1)。モデレータは日経BPイノベーションICT研究所の井上健太郎主任研究員が務めた。

写真1●「IoTスタートアップの実際」をテーマにテラスカイ、ウフル、フレクトがパネルディスカッション(写真:井上 裕康)
写真1●「IoTスタートアップの実際」をテーマにテラスカイ、ウフル、フレクトがパネルディスカッション(写真:井上 裕康)
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写真2●テラスカイの佐藤秀哉代表取締役社長(写真:井上 裕康)
写真2●テラスカイの佐藤秀哉代表取締役社長(写真:井上 裕康)
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 テラスカイでは、大型製造機械、電子レンジ程度のサイズの医療機器など、様々なサイズの機器をインターネットに接続して、データの収集・モニタリングを行っている。そのほか、店舗の電力消費量データを収集・モニタリングする「BEMS」のサービスも提供している。「いずれのIoTも、構想には1年かかったが構築は3カ月程度で完了した」(佐藤氏、写真2)。

写真3●ウフルの園田崇代表取締役(写真:井上 裕康)
写真3●ウフルの園田崇代表取締役(写真:井上 裕康)
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 ウフルは、IoT分野で事業企画から実装までの支援、マーケティングサポートを提供する。園田氏(写真3)によれば、「これまでモノを製造してきたベンダー、特に自動車関連の企業から引き合いが多い」という。「IoTの各プロジェクトの予算規模は300万~500万円、サービス構築にかかる時間は2カ月~3カ月程度だ」(園田氏)。

 フレクトの黒川氏は、同社が手掛けたエネルギー関連企業へのIoT導入事例を紹介した。「この企業では、エネルギー消費量を計測する検針機器がすでにインターネットに接続されている状態だったが、このシステムとデータをどう活用していけばよいのか分からずにいた。そこで、当社がサービス全体のデザインからシステム開発までを支援した」(黒川氏)。同社では、検針機器から収集されるデータを使い、消費者に対してモバイルのプッシュ通信でエネルギーの使い過ぎを知らせるシステムを構築した。

IoTのビジネスデザインに必要な視点とは

 IoTのスモールスタートに当たり、事業担当者はどのようにビジネスの仮説を立てて、稟議を通せばよいのか。井上研究員のこの問いかけに対して、3氏は次のように考えを述べた。

写真4●フレクトの黒川幸治代表取締役(写真:井上 裕康)
写真4●フレクトの黒川幸治代表取締役(写真:井上 裕康)
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 黒川氏(写真4)は、IoTでビジネスの仮説を立てることの難しさは「サービス全体をデザインすることにある」と指摘する。「IoTは構成分野が広い。製造業では“モノ”側の技術要素は分かっても“サービス”側の経験が無いためにIoTのビジネスデザインが難しい。同様に、サービス事業者はモノ側の経験不足がIoT参入の障壁になる」(黒川氏)。黒川氏は、この課題を解決するには「モノ/サービスではなく、ビジネス全体をユーザー起点で考えることが重要」だと述べた。

 園田氏は、同社が製造業を多く支援してきた経験から、「その企業が、市場においてどのような競争環境にあるのかを再定義したうえでプロトタイプを作ることが重要だ」との考えを示した。

 「流通業界やエネルギー業界の大規模企業では、すでにデータも仮説もあるが、それを具体的にどのようなサービスとして現場に提供していくかという点で、支援を求めている」と佐藤氏。そのうえで、「IoT導入は、その企業の業務の再構築と合わせて行うべきだ」と述べた。

クラウドを使えばIoT参入は難しくない

 「多くの企業に、いち早くIoTをスモールスタートしてほしい」というのが3氏に共通の思いだ。

 黒川氏は「クラウドを活用すれば、IT部門の協力を仰がなくても、現場から発想してIoTを開始できる」とする。実際に、同社では現場部門から直接、サービス開発の依頼を受けるケースが増えているという。

 「実は、クラウドを使えば、IoT構築に高度なエンジニアはあまり必要ない。ITの知識がなくても、エンドユーザー部門がサービスを作ることができる」(佐藤氏)。園田氏も、「IoTの標準化を待たずに、まずは、アイデアを動かしてほしい」と呼びかけた。