放送分野における音楽著作権管理事業の円滑化に向けた検討が2014年2月から進められている。協議の場となっているのは、著作権等管理事業を所管する文化庁の下で開かれている検討会である。この検討会には、音楽著作権管理事業者である日本音楽著作権協会(JASRAC)とイーライセンス、ジャパン・ライツ・クリアランス(JRC)のほか、利用者代表として日本放送協会(NHK)および日本民間放送連盟(民放連)が参加している。

 この検討会は、複数の音楽著作権管理事業者が包括的利用許諾契約(包括契約)の下で放送事業者から著作物使用料を徴収するに当たり、放送事業者が利用した楽曲に占める各管理事業者の管理楽曲の割合(利用割合)を勘案する必要があるという考え方の下で立ち上げられた。管理楽曲の利用割合を公正に算出するためには、「管理事業者が同一の情報を用いること」「利用楽曲の量の数え方などの計算の基準の統一を図ること」が前提になる。

2015年3月開催の会合でまず三つのルールの合意目指す

 こうした点を踏まえ検討会は、(1)利用曲目報告の内容・フォーマットの統一、(2)利用割合の算出基準の統一、(3)算出した利用割合を適用する使用料支払い時期、(4)利用曲目報告のデータの処理──を当面の検討事項とする。第1回会合は2015年2月2日に開催済みである。その後も順次開く会合で検討を進めて、検討事項のうち(1)と(2)、(3)については2015年3月下旬に開催予定の第4回会合で合意することを目指している。(4)については、2015年度に検討を開始する。

 検討会が立ち上がった背景には、複数の著作権等管理事業者が放送分野に関する音楽著作権等管理事業を円滑に行うための環境整備を求める動きが表面化しているという現状がある。放送分野の音楽著作権等管理事業でガリバー的存在であるJASRACは現在、NHKや民放連などとの包括契約の下で、放送事業者とそれぞれ個別の契約を結び、管理楽曲の著作物使用料を徴収している。

 この包括契約に対し公正取引委員会は「放送利用についての管理楽曲の利用許諾分野における競争を実質的に制限している」という考えから、2009年2月に包括契約の取りやめなどを目的とした排除措置命令を出した。JASRACが請求した審判の結果、同命令は2012年6月に公取委が出した審決によって取り消されている。

 著作権等管理事業者のイーライセンスは排除措置命令を取り消した審決に対し取消訴訟(行政事件訴訟)を提起し、東京高等裁判所は同社の請求を認める判決を2013年11月に言い渡した。この判決に対し公取委(被告)とJASRAC(参加人)はそれぞれ上告を行い、現在最高裁判所に係属している。これとは別にイーライセンスは2014年5月、JASRACを相手方として、独占禁止法違反行為による損害賠償と当該行為の差し止めを請求する訴え(民事訴訟)を東京地方裁判所に提起している。

 こうした一連の事件が起こっている中で、今回の検討会が発足し、議論をスタートさせた。検討会での協議がきっかけとなり、放送分野における音楽著作権管理事業者がそれぞれ納得するような環境整備の推進が期待される。