アドビ システムズは2014年12月18日、大学向け事業についての記者説明会を開催した。大きなテーマとなったのは、大学の研究分野における画像処理の問題。学術論文における不正な画像処理が問題となるなか、研究者の間では画像補整自体を悪とみなす傾向が出ているという。説明会には、研究者向け画像解析ソフトの開発などを手掛ける、エルピクセル 研究開発本部の湖城恵 技術アドバイザーがゲストスピーカーとして登場(写真1)。科学的な正しさを追求するうえで、適切な画像補整は欠かせないと訴えた。
実験データとして得られた画像を補整する行為を「データのねつ造」と捉えたり、良心がとがめると感じたりする研究者は少なくないという。だが湖城氏は、これらを“悲しい誤解”だと指摘する。なぜなら「(補正前の)現画像が真実かといえば、全く違う」(湖城氏)からだ。画像は、顕微鏡やカメラの設定、ボケや光の散乱などによって変化する。適切な画像補整を施さなければ、こうしたノイズを根拠に誤った主張をしてしまう可能性もあるという。
湖城氏が例として示したのは、植物の葉緑体を撮影した顕微鏡写真(写真2)。右側が明るく写っており、それは顕微鏡のランプの影響という。「Photoshop」を使って明るさのムラを補正すれば、明るさは一定になる。だがそれをしない場合、細胞は位置によって輝度が変わる、などの誤った主張につながりかねない。湖城氏は「真実を知るために、恐れずに画像処理を施してほしい」と話す(写真3)。
ではどう画像処理を行えば不正を避けられるのか。現在のところ厳密な定義はないが、科学雑誌などが設けている画像に関する投稿規定が参考になるという。「現画像を保持し、求められれば提出する」「施した画像処理は論文や実験ノートに書いておく」「その研究分野で受け入れられている画像処理方法を用いる」などがポイントになるとする。
課題は、研究者を目指す学生に対して画像処理スキルに関する教育が体系的に行われていないこと。研究室で先輩から教えてもらう、といったスタイルが一般的だという。アドビ システムズでは、大学生協と共同でWebセミナーを公開するといった取り組みを行っている。
「Creative Cloud」の全学導入が増加
このように、画像処理ソフトなどのアドビ システムズ製品へのニーズは美術系大学以外でも広がっているという。同社では、サブスクリプション方式でソフトウエアを提供する「Creative Cloud」を大学にも積極的に展開している。学部や研究室単位だけでなく「総合大学で全学導入するケースも増えている」(マーケティング本部 教育市場部担当部長の増渕賢一郎氏)という(写真4、写真5)。その背景には、大学におけるICT教育の質が、プレゼンテーションなど高度な表現スキルの育成へと転換していることなどがあるという。
Creative Cloudのメリットとして、常に最新版を利用できること、学生数の増減などの環境変化に応じて柔軟に契約を変更できることなどを訴求する。教育機関向けには、研究室やコンピュータ室での利用を想定し、端末にライセンスがひも付く「デバイスライセンス」も特別に用意している。
さらに2015年1月からは、日本の教育機関向けに新たなライセンス形態を用意。個人向けのCreative Cloudでは1年単位の契約が必要だが、教育機関向けには12カ月~48カ月までの範囲で任意の契約期間を月単位で設定可能にする。端末のリース契約期間に応じてCreative Cloudを契約したい、といったニーズに応えられるとする。
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