写真1●富士通 ヘルスケア・文教システム事業本部 本部長代理の中尾保弘氏(撮影:後藤究)
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写真2●「明日の学びプロジェクト」の概要
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写真3●富士通が検討中のMOOCのプラットフォーム
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写真4●内田洋行の大久保昇社長(撮影:後藤究)
写真4●内田洋行の大久保昇社長(撮影:後藤究)
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写真5●講演の中で、東京都荒川区などの先進事例を多数紹介した
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写真6●日本教育情報化振興会(JAPET&CEC)の森本泰弘事務局長(撮影:後藤究)
写真6●日本教育情報化振興会(JAPET&CEC)の森本泰弘事務局長(撮影:後藤究)
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写真7●JAPET&CECの独自調査の結果。1人1台の端末の整備については、検討中や未検討の自治体が多かった
写真7●JAPET&CECの独自調査の結果。1人1台の端末の整備については、検討中や未検討の自治体が多かった
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 2014年10月15日から17日にかけて開催されている「ITpro EXPO 2014」では、教育におけるICT(情報通信技術)活用に関する複数のセミナーが実施された。この分野の最新動向から調査結果、新製品まで幅広い話題が飛び出した。先進的な取り組みの一方で、情報化が思うように進まない自治体があることへの指摘も目立った。

 富士通 ヘルスケア・文教システム事業本部 本部長代理の中尾保弘氏は、『「LearnerCentric」で創る未来の学び』と題して、同社の教育分野における取り組みを紹介した(写真1)。あくまで学習者(Learner)を主役と考え、1970年代から教育関連ソリューションを手掛けてきたという同社。例えば2014年上期には、佐賀県や東京都荒川区をはじめとした173団体に、約3万台のタブレット型パソコンを導入したという。

 2014年10月16日に発表したばかりの「明日の学びプロジェクト」についても説明(写真2)。国内とアジア地域の合計6校の小中学校に機器やソフトウエアを貸与し、ICT活用を支援する。授業でのICT活用を容易にするための新製品「FUJITSU 文教ソリューションK-12学習情報活用 知恵たま」や、教員のノウハウを蓄積するためのポータルサイトを提供するという。

 大学などの高等教育分野に向けては「MOOC(Massive Open Online Courses)のプラットフォームの立ち上げを検討している」(中尾氏)と明かした。各大学専用のオンライン教材SPOC(Small Private Online Courses)と、広く公開されたMOOCを組み合わせ、新たな学びを創出したいと話した(写真3)。

 続いて壇上に立った内田洋行の大久保昇社長は、教育でのICT活用は今、「ある種のブームになっている」と分析(写真4)。これをただのブームで終わらせないためにどうすべきか、をテーマに話を展開した。

 佐賀県や佐賀県武雄市、東京都荒川区、大阪府大阪市などの「超先進事例」(大久保氏)は、全国から注目を集めている(写真5)。茨城県つくば市や兵庫県姫路市、滋賀県草津市など複数の自治体でも、積極的な取り組みが始まっている。大久保氏自身、こうした地域を実際に視察し、効果を実感しているという。

 だが、こうした動きがそのままスムーズに広がるとは限らないと大久保氏は見る。実際、自治体には従来から、地方交付税の形でICT環境整備のための資金が分配されているが、「本来の目的に使われているのは推定では4分の3以下といわれている」(大久保氏)。自治体によって、温度差があるのが実情だ。

 大久保氏も「ICTを入れるか入れないかは、自治体ごとに決めればよい」としながら、「黒板とチョークに固執して、将来の日本を支える子供たちに新しい道具を自ら使う機会を用意しないことが許されるのか」と疑問を投げかけた。これからの子供たちには、正解のない課題に主体性を持って立ち向かい、自ら答えを見出す力が求められるとし、そのためにはICTの活用は重要だと強調した。

 日本教育情報化振興会(JAPET&CEC)の事務局長を務める森本泰弘氏も、自治体間での格差について触れた(写真6)。佐賀県などの先進事例が存在する一方で、ICT環境の整備が進んでいない地域もあるという。

 文部科学省の調査によれば、現在使われている教育用パソコンは190万台。パソコン1台当たりの児童生徒の人数は6.5人で、文科省が目標と掲げる3.6人を目指すにはさらに150万台が必要な計算だ。190万台のうち36万台が、いまだWindows XPを搭載しているというデータもある。また無線LANの整備率は、20%ほどにとどまっている。

 JAPET&CECが独自に調査したところ、1人1台のパソコンや、電子黒板の整備などには積極的な自治体が多かったという。一方でほとんどの自治体が、具体的な整備計画を立てられていないという実態が明らかになった(写真7)。

 こうした自治体に対して森本氏は、段階的に整備を進めていくべきと話す。荒川区でも、まずは校内LANを整備し、電子黒板、デジタル教科書、モデル校へのタブレット導入と段階を踏んで整備している。こうした例を参考に「地に足の付いた形でICT環境の整備を進めよう」と訴えた。

 セミナーの最後には、日経BP社 教育とICT Online編集長の中野淳が登壇。JAPET&CECと日経BP社が共同で実施する調査の途中集計の報告を交えながら、ICT環境の整備がいまだ十分でないこと、自治体間に格差があることなどについて話した。