写真1●全日本空輸(ANA)の幸重 孝典上席執行役員 業務プロセス改革室長(写真中)とLIXILの小和瀬 浩之執行役員 CIO兼情報システム本部本部長(同右)によるパネルディスカッション。司会は吉田琢也編集長(同左)
写真1●全日本空輸(ANA)の幸重 孝典上席執行役員 業務プロセス改革室長(写真中)とLIXILの小和瀬 浩之執行役員 CIO兼情報システム本部本部長(同右)によるパネルディスカッション。司会は吉田琢也編集長(同左)
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写真2●ANAの幸重 孝典上席執行役員 業務プロセス改革室長
写真2●ANAの幸重 孝典上席執行役員 業務プロセス改革室長
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写真3●LIXILの小和瀬 浩之執行役員 CIO兼情報システム本部本部長
写真3●LIXILの小和瀬 浩之執行役員 CIO兼情報システム本部本部長
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 「全体最適を意識した全社レベルでの業務プロセス改革を推進できるのはIT部門だけだ」(全日本空輸の幸重 孝典上席執行役員 業務プロセス改革室長)、「IT部門は現場の人たちよりも業務を勉強し『業務プロセスのプロ』になる必要がある」(LIXILの小和瀬 浩之執行役員 CIO兼情報システム本部本部長)――。2014年10月15日に「ITpro EXPO 2014」の会場で行われたパネルディスカッションで著名な二人のCIO(最高情報責任者)が、日本企業のIT部門にとっての課題を議論した。

 パネルディスカッションは、「改革を牽引するCIO2人が徹底討論 ~2020年、日本成長へのシナリオ~」というタイトルで、日経コンピュータの吉田琢也編集長が司会を務めた。全日本空輸(ANA)の幸重CIOとLIXILの小和瀬CIOは、(1)日本のIT部門が抱える課題、(2)日本企業の強みを伸ばすために必要なIT施策、(3)今後のIT部門が果たすべき役割、という3点について議論した。

日本企業のIT部門は業務標準化を推進せよ

 (1)の日本のIT部門が抱える課題については、ITの導入が業務プロセスの標準化に繋がっていないことなどが挙がった。LIXILの小和瀬CIOは、世界中の様々な地域で「SAP ERP」などを導入してきた経験を基に、「欧米の企業はグローバルな業務標準化を実現するツールとして『SAP ERP』などのパッケージソフトを導入している。しかし日本企業はSAP ERPを導入しても、業務標準化を実現していない。業務を標準化していなければ、ある国で見つけた『ベストプラクティス』を他の国に横展開できないため、グローバル経営の効率化が達成できない」と指摘した。

 ANAの幸重CIOは、国際線の基幹系システムの入れ替えを通じて、世界規模での業務標準化を図っていることを明かした。「国際線は他国の航空会社との連携が必須になっており、お客に対して統一した予約プロセス、乗り継ぎプロセスを提供する必要がある。そのような視点に基づき、国際線の基幹系はクラウドへと完全移行し、他の航空会社と同じやり方を選ぶことにした」(幸重CIO)。

コア業務で独自性発揮、そのための追加開発もいとわず

 システムをパッケージソフトやクラウドのSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)に標準化した状態で、どのようにすればITによって他社との違いを引き出せるのか。討論テーマ(2)の、日本企業の強みを伸ばすために必要なIT施策については、「ノンコア業務についてはパッケージに任せ、コア業務については追加開発もいとわずに、独自性を追求する」(小和瀬CIO)という方針が語られた。

 例えばLIXILでは、在庫管理そのものはSAP ERPで実施しているが、「SAP ERPに登録するデータは、独自に開発した出荷トレンド予測システムが統計的に導き出している」(LIXILの小和瀬CIO)という。「自動的に在庫を補充する仕組みはパッケージソフトが提供してくれるノンコア業務だ。しかし、適正な在庫水準を決めるのはコア業務だ。コア業務を支えるシステムは独自に開発する」(同)。

 ANAは「国内線は、新幹線との競合があるなど競争環境が国外とは異なるので、独自のシステムで対応している」(幸重CIO)という。また「同じ鍋と食材でもシェフの腕によって料理の味が変わるように、同じ機材でもサービスの質は人によって変わる」(同)との考えの下、機内での快適なサービスを実現するためのIT投資を行っているという。例えば、キャビンアテンダント(CA)などにタブレットを配備することで、「どこにいても統一した顧客プロファイルのデータベースを確認できるようにし、いつものお客にいつものサービスを提供できるようにした」(幸重CIO)。

IT部門の名前を変えるのも一つの手

 (3)の、今後のIT部門が果たすべき役割については、業務プロセスの改善を現場や経営陣に提案するという方向性が示された。ANAの幸重CIOは、「IT部門はユーザー部門の注文に基づいてシステムを作りがちだが、ユーザー部門は全体最適ではなく部門最適で物事を考えがちだ。全体最適を考えて、ITという視点で業務プロセスの改善を考えられるのはIT部門だけだ」と指摘する。

 ANAではIT部門の役割を、業務プロセスの改善へとシフトするために、IT部門の名称も今のような「業務プロセス改革室」へと改めている。「名前の変更によって、社内の様々な部門に業務プロセス改革を提案する部門だという位置づけが明確になった」(幸重CIO)。

 LIXILの小和瀬CIOは、「IT部門は現場の業務そのもののプロにはなれないが、業務プロセスのプロになる必要がある」と語る。小和瀬CIOは、「そのためには、ITだけではなく現場の業務に興味を持って、現場の人以上に業務を勉強する必要がある。そうしてIT部門と現場が、業務について盛んに議論をする。そうすれば会社そのものが良い方向に進むようになる」と力説した