写真●インテル常務執行役員事業開発本部本部長の平野浩介氏(撮影:新関雅士)
写真●インテル常務執行役員事業開発本部本部長の平野浩介氏(撮影:新関雅士)
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 「IoTはすでにビジネスのフェーズに入った。お金を払ってもらえるサービスにするにはデバイスやインフラのほかにアプリケーションが重要になる」---。インテルで常務執行役員事業開発本部本部長を務める平野浩介氏は2014年10月15日、ITpro EXPO 2014で講演し、IoTの最新動向について複数の活用事例とともに紹介した。

 冒頭で平野氏は、IoT(モノのインターネット)による効率化が求められている背景について解説した。世界のエネルギー需要は年々増えており、現在のエネルギー供給量だけを考えていたら世界は成り立たなくなる。エネルギーの効率化が重要であり、その手段のひとつがIOTであるとした。

 例えば、1%の燃費向上で、航空業界なら15年間で3兆円のコスト削減効果があるという。ガス火力発電なら6.6兆円、ヘルスケアなら6.3兆円、鉄道なら2.7兆円のコストを削減できる。また、石油・天然ガスの発掘作業については、設備投資費用を1%削減できれば、15年間で9兆円を削減できる。

 2020年までに500億個のデバイスがインターネットに接続されると見られている。IoTへの投資額は現在11兆円ほどだが、今後4~5年で倍増すると見られている。こうした中でIoTは市民権を得ており、すでにIoTを活用したユーザー事例が数多く登場しているという。

 平野氏は、こうした事例の一つをビデオで紹介した。この事例では、配送トラックにセンサーを付けてデータ集積し、クラウド上でビッグデータ解析する。こうして、燃費向上や運転支援のサービスにつなげている。これにより、これまで年間で500億ガロン使っていたガソリンの量を7%節約した。

エッジデバイスやクラウドがIoTアプリケーションを支える

 平野氏は、現在のIoTの状況を、「IOTはビジネスなので、お金が回らなければならない」と説明する。すでにビジネスのフェーズに入っており、IoTで提供できるサービスをユーザーに価値として認めてもらわなければならない。ハードウエア/ソフトウエアが充実してきたことで、IoTのビジネス化が可能になっているという。

 実際にIoTシステムを支える要素を、平野氏はまとめた。まず、エッジデバイス側では、ベースとなる半導体チップが必要になる。さらに、データ集積のためのゲートウエイ装置なども必要になる。これらを安全に使うためのセキュリティも重要である。一方、データを集約するデータセンター側では、ビッグデータ分析の仕組みやIoTを価値に変えるアプリケーションソフトが必要になる。

 インテルでは、半導体チップやデータセンターのインフラなどでIoTを直接支えている。例えば、エンドポイントデバイスを効率よく実装するための超小型開発プラットフォーム「Edison」を、2014年10月25日から発売する。これを使うと切手大のLinuxサーバーを実現できる。平野氏は、Edisonを搭載したぷらっとホームのサーバー機「OpenBlocks IoT」の実機も見せた(関連記事:ぷらっとホーム、Intel Edisonを採用した超小型サーバー「OpenBlocks IoTファミリ」を発表)。

 一方、アプリケーションソフトの開発については開発パートナーの力が必要とし、パートナー各社によるIoTアプリケーションの事例を紹介した。講演の後半では、富士ソフト、オムロン、三菱電機の担当者が講演に登壇し、それぞれのIoTアプリケーションについて紹介した。

急ぎ運転や居眠り運転のドライバーにアラートを出す

 IoT事例紹介の最初に登壇したのは、富士ソフトでソリューション事業本部事業企画部部長を務める梅津雅史氏である。同社は、IoTを使った安全な車社会を実現するアプリケーションを開発した。

 この事例では、自動車の運転データとドライバーの生体情報をクラウドに転送し、これを分析する。これにより、今の運転状態が正常なのか、急ぎ運転なのか、居眠り運転なのかをリアルタイムに近いスピードで判定し、これをアラームの形でドライバーにフィードバックする。

 次に登壇したのはオムロンでインダストリアルオートメーションビジネスカンパニー オートメーションシステム統括事業部コントロール事業部事業部長を務める瀬野直紀氏である。同社は、開発したIoTシステムの事例を三つ紹介した。(1)搬送時の揺れを制御する制振制御システム、(2)卓球ロボット、(3)製造工程におけるビッグデータ活用---である。オムロンの自社事例としても、同社の草津工場でビッグデータ活用に取り組んでいるという。

エッジデバイスの高性能化でディープラーニングも実用に

 オムロンはまた、生産現場のマシンオートメーションコントローラー製品の新製品も写真で紹介した。同社のコントローラーは、2011年にそれまでの専用ASICからAtomに切り替えており、今回の新製品ではクアッドコアのCore i7で高性能化を図る。従来の専用ASICと比べると20倍の性能になる。

 インテルの平野氏は、Core i7を搭載したエッジデバイスについて「デバイスの高性能化によって、デバイス側での人工知能やディープラーニングなども可能になる」と期待を寄せる。

 工場での事例では、インテルも半導体工場でビッグデータを活用しているという。1時間当たり5Tバイトのデータを収集して分析することにより、歩留まりの向上などの効果を上げている。これにより、年間で9億円以上のコストを削減したという。コントローラーには三菱電機製を使っている。

 最後に、インテルが導入しているファクトリーオートメーションコントローラーを開発した三菱電機で役員理事FAシステム事業本部副本部長を努める山本雅之氏が登壇した。同社のIoTアプリケーションでは、製造装置の障害予知/予防保全を実現している。

 平野氏は、障害予知/予防保全について、工場以外でも色々な分野で使われるだろうと展望した。こうした例の一つとして東京ゲートブリッジを紹介した。東京ゲートブリッジにはセンサーが沢山付いており、予防保全を実施しているという。