講演する家室氏
講演する家室氏
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 「家庭用ゲーム機の触覚フィードバックは今後、単なる『ブルブル』を超えたものを実装できる」――。CRI・ミドルウェア(東京都渋谷区)の家室証氏は、2014年9月2~4日にパシフィコ横浜で開催されたゲーム開発者会議「CEDEC 2014」で、家庭用ゲーム機の触覚フィードバック機能について講演し、こう指摘した。

 同氏はまず、家庭用ゲーム機の触覚フィードバックの歴史を「1997年の初登場から今に至るまで、長らく“ブルブル”という振動の提示にとどまっている」と振り返った。

 1997年に任天堂が「ニンテンドー64」の周辺機器としてコントローラーを震わせる「振動パック」を発売し、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)も「プレイステーション」用の振動機能付きコントローラー「デュアルショック」を発売。視覚と聴覚によるゲーム体験に触覚を加えた。以降、振動機能は家庭用ゲーム機に標準搭載されるようになったが、最新機種においても触覚の提示は振動機能によるもので「17年前から目立った進歩がない」(家室氏)。

 触覚刺激には、力、振動、熱、化学、電気などがあるが「家庭用ゲーム機に取り入れるには安全で幅広いユーザーに受け入れられる必要があり、電気や熱、化学は適当とは言えない」(同氏)。加えて、頑丈でメンテナンス不要でなければならないことを考慮すると、モーターを使って力覚を提示する方法は、家庭用ゲーム機には使いにくいため、家庭用ゲーム機での触覚提示は、どうしても振動の提示に限られると家室氏は説明する。ただし、「振動をうまく制御すれば、かなり“良い”感覚を提示できるはずだ」(同氏)。

 そもそも、家庭用ゲーム機に求められる触覚フィードバックは「すべての物理刺激を再現するような完璧なものではなく、要素を抜き出して再現し、人間の知覚で補うことでリアルさが感じられるもの。ユーザーの体験ベースで考えるべき」と家室氏は指摘。触覚フィードバックの補完や増強につながるキーワードとして、錯覚、クロスモーダル(多感覚統合)、コンテキスト(文脈)を挙げた。

 例えば、振動を変調して特定方向への知覚を強調することで、ある方向に引っ張る力を感じさせるなど、人間の錯覚を利用して、振動だけで力の感覚を提示できるようになる。また、東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授の廣瀬通孝氏らの研究グループが試作した、映像と触覚を合わせる「Magic Pot」のように、ほかの感覚とのクロスモーダル効果で触覚表現を豊かにできる。さらに、ユーザーがゲーム世界にとってどんな存在か、コントローラーはゲーム世界の何に当たるのか、といった文脈を丁寧に設計すれば、直感性を高められるとする。

 家室氏は「今後も家庭用ゲーム機では振動コントローラーの採用が続くだろう。ただし、単純な振動にはとどまらない」とし、例えば、音声信号を用いた振動提示などの採用が始まると予測した。「音声信号の波形がそのまま振動の波形になるため、ボイスコイルモーターやスピーカーが振動提示のためのアクチュエーターになる。低コストで壊れにくい部品を使って、かなり細かく振動を制御できる。振動のサンプル取得も、録音で簡単にできるので、振動のバリエーションを増やすのも容易だ」(同氏)。また、再生する周波数のうち、低周波は振動として、高周波は音として、人間の体に認識されるため、クロスモーダル効果も期待できるという。