写真●神戸大学大学院工学研究科教授の塚本昌彦氏
写真●神戸大学大学院工学研究科教授の塚本昌彦氏
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 2014年9月2日に開幕した「CEDEC 2014」。3日の基調講演では、神戸大学大学院工学研究科教授の塚本昌彦氏が、「ウェアラブルコンピューティングの動向とウェアラブルゲームへの展開」というテーマで持論を展開した。

 塚本氏はこれまで13年間にわたってウェアラブルコンピューティングを実践している。同氏によれば、ウェアラブルの歴史は意外と長く、「本来なら日本から10年以上前に立ち上がっているべきだった」という。「20~30年前は、PDAやゲーム機、デジカメなど、日本メーカーが次々とあっと驚く新商品を出していて、面白いと感じていたものだ。ところが、この15年間はぱったりとなくなってしまった。経済の影響もあるが、企業の中で、新しいものをつぶしていく方法論のほうが強くなり、なかなか新しい商品が生まれなくなっているのではないか」。

 ただし、コンピュータがどんどん小型化し、使い方が変わってくる中で、ウェアラブル機器が「実世界の活動の中で使われるようになるのは必然的な流れ。ウェアラブルは“バズワード”ではない。アカデミックの分野でも20年以上にわたって、一つのコンピューティングのスタイルを表す言葉として定着している」という。

 塚本氏は、ウェアラブルを「服のように着ることで、実世界の中で活動をする」ための道具だと説明する。この「実世界での活動」「生活密着」ということが重要であるという。常に電源オンの状態で別の活動をしながら利用できる、ネットを介したコミュニケーションではなく目の前にいる人とのコミュニケーションに使える、ハンズフリーで使える、といったことがポイントだ。従って、仮想現実(VR)の世界に没入する「Oculus Rift」のようなヘッドマウントディスプレイは、身に着けるものであってもウェアラブルとはいえない。

 「反感を買いやすい部分だが、この10~20年、ネット上の架空の空間があまりに大きくなりすぎて、人類に弊害を与えているのではないか」と同氏は指摘する。「確かにネットは便利だが、1日中部屋にこもってネットだけで生活しているような人が出てくるなど、社会が不健全になっている。こうした状況の中で、ウェアラブルが有効だ」と同氏は主張する。ウェアラブルによって「実空間」の中に戻ることで、「ネット空間を撲滅せよ」と同氏は訴える。

 ウェアラブルにまつわる最近の状況については、「ウォッチ(Watch)」型のウェアラブル機器が多数登場している点に注目。それらを情報系(スマートウォッチ)、スポーツ・健康系、Bluetooth Watch、Watch Phone、Watch型カメラ、Watch型音楽プレーヤーなどに分類して説明した。中でも情報系は昨年から非常に多くの端末が出てきている。この8月末から9月初めにかけては、サムスン、LGが相次ぎデバイスを発表。4日にはモトローラが、5日にはASUSやソニーが発表する見込みだ。そして9日には、アップルがついに「iWatch」を発表するという噂もある。同氏は「まさにウォッチウイークだ」として、さらなる盛り上がりを期待する。

 ゲーム開発者に対しては、「昔からあるたくさんの子供の遊びとウェアラブルを結び付けたら、面白いゲームができるだろう」とアドバイス。そのアイデアの一例として、日本ウェアラブルデバイスユーザー会で提案された「RPG鬼ごっこ」を紹介した。鬼ごっこにRPGのようなレベルやステータスの概念を導入するもので、Android Wearを身に着けて遊ぶ。レーダーやセンサーで相手を確認することなども想定するという。「ウェアラブルを使って、実世界の中で、新しい身体活動の喜びを作ることができるのではないか」。

CEDEC 2014公式サイト