写真●言葉だけで「物語」を語る作家の冲方丁氏
写真●言葉だけで「物語」を語る作家の冲方丁氏
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 コンピュータエンターテインメント協会(CESA)は2014年9月2日、ゲームなどコンピュータエンターテインメント開発者向けのカンファレンス「CEDEC(Computer Entertainment Developers Conference)2014」を開幕した。会場は神奈川県横浜市のパシフィコ横浜会議センター。メインホールでは、CESAの鵜之澤伸会長のあいさつに続いて、作家の冲方丁(うぶかたとう)氏が登壇。「物語の力」と題した基調講演を行った。

 冲方氏は「14~15年前にゲームのシナリオ制作に参加し、月曜に出社して、帰れるのは次週の火曜日だった(笑)。今回はゲーム業界へのご恩返しとして、物語がなぜ求められるのかを話したい」と講演をスタート。“経験”というものには、どんな人も持つそれぞれの固有の経験、間接的な経験、人工的な経験があり、物語は「人工的な経験を有効に与える」ものと位置づけた。

 ゲームの原点として同氏は、コンピュータを使わない「テーブルトークロールプレイングゲーム」を提示。それを構成するゲームマスター、判定者、ダイス(さいころ)の3要素のうち、最もリアリティを感じさせるのがダイス、すなわち偶然性であるとした。人間が無数にある偶然の中で未知なるものを求めて生きると同時に、偶然を解明して必然に変える欲求を持つと論じた。

 そして物語については、(1)神話、(2)宗教、(3)王権の物語(王権神授説など)、(4)民話と寓話、(5)大衆の娯楽、(6)吟遊詩人などが語った権力に対抗する「個の物語」、(7)貨幣経済下で生まれた物語(南総里見八犬伝など)、(8)現代における「広告化した物語」――が生まれてきたと指摘。「この100年くらい、物語は拡散力が価値となり、広告化した。言い方を変えれば、企業の物語になったと言えるかもしれない。シリーズ化、前作を上回るものの投入が求められている」と語った。一方で、現代はかつてなく自由に物語を作れる時代でもあり、ゲームは偶然という要素に必然を導入できる貴重な手法であると指摘。ゲーム制作者の努力を促した。

 1100人を収容できる会場は最初から立ち見が出る盛況ぶり。スライドを使わずに言葉だけで行われた約50分の講演後も、質疑応答が長く続いた。「まじめな質問ばかりですね」と冲方氏。集まったゲーム制作者(やそれを目指す人)にとっては、自らの仕事の立ち位置を確認する貴重な機会となったようだ。

CEDEC 2014公式サイト

■変更履歴
記事公開当初、コンピュータエンターテインメント協会の表記に誤りがありました。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。[2014/09/04 15:00]