写真1●2011年比でニューロン数は約4000倍、シナプス数は約1000倍に
写真1●2011年比でニューロン数は約4000倍、シナプス数は約1000倍に
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写真2●4096のコアをメッシュ状に配置した
写真2●4096のコアをメッシュ状に配置した
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 米IBMは2014年8月7日、ニューロン(脳神経細胞)の働きを模したプロセッサ「ニューロシナプティック・コンピュータ・チップ」を開発したと発表した。米コーネル大学との共同研究で、8日付の米科学誌サイエンスで発表する。

 CMOSチップの中でも最大級といえる54億個のトランジスタを備え、これらが100万個のニューロン、2億5600万個のシナプス(ニューロン間結合)の働きをシミュレートする(写真1)。チップは韓国サムスン電子の28nmプロセスで製造した。

 生物と同じ時間軸でニューロンやシナプスを動作させた場合、消費電力は70mWほど。ニューロシナプティック・チップの場合、必要な箇所だけニューロンを「発火」させればいいため、通常のマイクロプロセッサより消費電力を抑えられるという。

 IBMは、同種のアーキテクチャに基づくニューロチップを2011年に試作している。このとき開発したチップは1コア構成で、ニューロンは256個、シナプスは26万2144個だった。

 IBMは今回、同じような規模のコアを1チップに4096個、メッシュ状に実装した(写真2)。各コアがメモリ、演算、通信機能を備える。いずれのコアもクロック信号が要らない非同期式回路で、クロック信号の発信に必要な電力を削減できる。

 コアをメッシュ状に並べるシンプルな構成のため、このチップをタイル状に並べることで、システムのニューロン数をスケーラブルに増やすことができる。IBMは既に16チップ、1600万ニューロンと40億シナプスを備えるシステムを製作済みという。

 IBMはチップの開発と並行して、アプリケーション開発に必要なシミュレータ、プログラミング言語、サンプルのアルゴリズムやアプリケーション、ライブラリ、教材などを開発している。

 IBMは長期的なゴールとして、100億ニューロン、100兆シナプスのシステムの開発を目指す。消費電力は1kW、体積は2リットル以下だ。こうした技術は、公衆安全、視覚障害者向けの視覚アシスト、健康モニタリング、自動運転などに応用できるという。このプロジェクトには、米DARPA(国防高等研究計画局)が2008年から5300万ドルを助成している。