写真:Getty Images
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11年に及ぶM&A(合併・買収)攻勢で海外売上高を約60倍の9000億円規模(2017年度予測)まで拡大させるNTTデータ。海外売上高比率は5割に迫り、設立30年の来年度にも1兆円の大台が見えてきた。伸びしろは国外にあると見て海外事業に一段と力を注ぐが課題も残る。バラバラのままの海外子会社やサービスなどを1つにまとめ上げられるかだ。キーワードは「和」。米国式経営とは一線を画し、買収先はリストラしない、本社主導ではなく拠点間の融合を促すという作戦だ。コスト高のまま収拾がつかずに苦戦する事態に陥らないのか。現地取材を通じて、常識破りとも言える経営戦略の勝算を探った。

図 NTTデータの海外事業の売上高と社員数の推移
海外売上高が約60倍に(写真:Getty Images)
図 NTTデータの海外事業の売上高と社員数の推移
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 「グローバルでトップ5を目指す」――。今期(2017年度)の売上高を2兆円と見込む、ITサービス分野で断トツの国内最大手であるNTTデータ。岩本敏男社長は2012年6月の社長就任以来、決算発表などの場で何度となく中長期的な目標をこう宣言してきた。

 確かに本気だと思わせるスピード感がある。2006年度(2007年3月期)に156億円だった海外売上高は今期に9000億円を突破する見通しだ。この11年間で実に約60倍に増える計算だ。

 一方の国内売上高は2006年度に初めて1兆円を突破したが、11年たった今期は1.1倍とほぼ横ばいの見込み。海外売上高比率は年々増え、今期は4割を超えそうだ。海外の社員数は約7万7000人(2017年3月時点)と、10年間で約90倍に増え、グループ全体の7割を占めるに至った。

 国内ITベンダーの海外売上高を比べると、NTTデータは2位につける。トップは富士通の1兆6440億円で、海外売上高比率は36%だ。ただ同社の海外売上高比率はこの10年間で30~40%を行ったり来たりしている。勢いではNTTデータのほうが上だ。

 NTTデータは2020年ごろに海外売上高比率を5割に高める目標を掲げていたが、岩本社長は「2018年度に達成できそうだ」と話す。さらに2025年ごろには6割超まで高める理想を描く。年金や国税のシステムなど官公庁向け案件でもうける、ドメスティックな印象はもはや過去の姿だ。

図 NTTデータが描く海外売上高比率の長期目標
8年後に海外売上高比率6割超を目指す
図 NTTデータが描く海外売上高比率の長期目標
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「無名」から脱却の兆し

 理想を掲げ、海外事業を拡大させるものの、同社で海外事業を統括する西畑一宏副社長は「4~5年前までは社名すら海外ではほとんど知られていなかった」と打ち明ける。各地域で買収を続けた結果、「業績を伸ばしていると評価され始め、知名度がようやく高まってきている」(同)という。

 ここ11年で50社超の買収に投じた金額は6000億円超。最大の買収は2017年3月に買収した米デルのITサービス部門である。同部門はデルが2009年に買収した旧米ペロー・システムズを中心とする旧3社から成る。約3500億円を投じた大型買収により、NTTデータの北米拠点の売上高は5000億円を超える規模に増えた。

表 NTTデータの主な買収先
11年間で買収総額は6000億円を超える
表 NTTデータの主な買収先
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でも世界IT大手の背中は遠く

 グローバルトップ5を目指すとはいえ、世界100カ国以上でITサービス事業を展開する米IBMやアクセンチュアと比べるとまだ物足りない。西畑副社長は「(デルのITサービス部門買収によって)2017年、やっと世界で同列に戦える土俵に上がったまでに過ぎない」と劣勢を認める。

 IBMやアクセンチュアが獲得してきた顧客に割って入り、既存システムの更改案件を取っていくのは難しい。そのため「人工知能(AI)やIoT(インターネット・オブ・シングズ)などを使った成長分野やクラウド活用を前提とした新規案件の獲得から食い込んでいく戦略」(同)だ。

 トップ5を目指すには世界で「稼げる」体質に変える必要もある。営業利益率をみると、IBMやアクセンチュアは10%以上。NTTデータの海外事業は2~3%台だ。IBMやアクセンチュアはインドや中国などに大規模な拠点を設けて単価の安い人材を大量動員する手法でコスト削減を進めてきた。例えばアクセンチュアはインドに約15万人の人材を抱えているとみられる。NTTデータもインドに拠点を持つが規模は約2万人と1割強にとどまる。

 営業利益率について西畑副社長は「まだ成長を狙う局面にあり、短期的な改善は追い求めていない」と話す。買収した企業の構造改革を進め、リストラを断行すれば「一時的には改善するがそうしないのが当社流」(西畑副社長)。

 買収直後に買収先の社員を大規模に解雇するリストラはしない方針だ。ただし2~3年後に事業の将来性を見極めたうえで事業再編や人員削減といったリストラを実施するケースはある。

 いずれにしろ、リストラを避ける取り組みは見方によっては構造改革の遅れか、あるいは単なる強がりのように取れなくもない。だが、西畑副社長によればロイヤルティー(企業への愛着心)を高める効果が出ているという。

 デルのITサービス部門がインドに持っていたBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)事業を継承したNTTデータサービシズのタンビール・カーンBPOプレジデントは、「デルという巨大なPCメーカーの5%ほどの売上高しかなかった部門が、ITサービス企業の一員として成長する機会を得た。社員はクビを切られることもなく、むしろさらなる増員を促されている」と証言する。

(画像提供:NTTデータ(左))
(画像提供:NTTデータ(左))
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 投資はしばらく続きそうだ。2017年10月にはインドで欧州SAPのERP(統合基幹業務システム)事業を手掛けるヴィセントリックテクノロジーズを独子会社のアイテリジェンスを通じて買収。米国や欧州、アジア地域での買収を通じて顧客基盤を拡大し、海外事業の下地を整備していく戦略だ。

 人を切らずに業績を高めるという米国流の経営からすればありえないことに挑むため、NTTデータは次なる一手を打つ。買収した海外子会社それぞれの強みを残しつつ、各社が調和を取りながらそれぞれのノウハウや人材を共有して相乗効果を生み出す取り組みだ。つまり「和」で攻める戦略である。

 「金に飽かせて何でも買っている」と競合の首脳陣から揶揄されるNTTデータのM&A攻勢だが、実は既存ビジネスと親和性の高さを重視して買収を続けてきた。主要な子会社の事業を見ると、ユーザー企業に対してコンサルティングからシステム開発、アウトソーシングまでを一括で請け負ったり、SAPのERP導入を得意としていたり、NTTデータ本社と相似する。

 事実、約1200億円を投じた最初の大型買収だった米キーンは顧客の所属業種や提供する事業がNTTデータと似通っており、「ミニNTTデータ」と称された。買収攻勢でNTTデータは世界5大陸の全てに分身のような子会社を持つに至った。

 今後は世界51カ国・地域の210都市に散らばった子会社が地域や業種ごとに持つ強みを互いに取り込んで、成長を加速させていく考えだ。

図 NTTデータの海外拠点と地域別社員数
51カ国・地域の210都市で約11万人が働く
図 NTTデータの海外拠点と地域別社員数
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「モザイク」から「1つの会社」に

 「ローカルプレゼンス、グローバルシナジー、グローバルブランド。今後高めるのはこの3つだ」。2017年10月4日、インド・バンガロールにある拠点に集結した本社と海外子会社の幹部約150人に向けて、西畑副社長は訴えた。

 NTTデータは年に2回、世界中から幹部を集め国際会議を開いている。単に経営上の数値や概況を共有する場というより、議論を通して子会社同士で共同事業を模索するなど一体感を醸成する場としての意味合いが強い。

 国際会議には岩本社長も参加。「グループ各社のシナジーを生み、グループ一体となって成長していく場だ」と会議の位置付けを話す。一体感や協調性を繰り返し訴えるのは、世界トップ5に食い込むための課題がはっきりしているからだ。

 西畑副社長はその課題を「モザイク」と端的に表現する。海外各地域で子会社がバラバラにITサービスを提供してきた体制を比喩している。50社を超える海外子会社と東京・豊洲に構える本社との「和」による効果が小さいとの認識だ。「さらなる飛躍には各地域が1つの会社として有機的に機能する必要がある」(西畑副社長)。

 各地域の連携が進むほど、グローバルに事業を展開する顧客の大型案件を獲得しやすくなる。既にNTTデータはこの成功体験を持っている。最たる例が2015年に100億円規模で受注した独フォルクスワーゲン(VW)の案件だ。欧州だけでなく米国や南米、中国などで使う、物流や販売などの業務システムの運用やクラウドサービス導入などを相次ぎ獲得した。

 同年に発表した、独ダイムラーから基幹システムの開発と保守運用を受注したのも成功体験の一例だ。インドやトルコ、米国でERPの保守運用を請け負う案件である。

 複数の地域にまたがるシステム開発案件は大規模なケースが多く、海外事業の成長には欠かせない。岩本社長は年間売上高が50億円以上の顧客数を2017年3月時点の約60社から「100社超まで増やしたい」と意気込む。

(画像提供:NTTデータ)
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共通の方法論で好循環狙う

 VWやダイムラーのようなグローバル企業の顧客をさらに増やすためには、世界のどこでも均質なITサービスを提供できる必要がある。グローバルIT企業の定石に従い、NTTデータは2014年から開発方法論の統合を進めてきた。海外各社の方法論の強みを「いいとこ取り」して、システム開発の進め方だけでなく、プロジェクト管理の手法まで含めて統合する施策だ。

 3年をかけて2017年5月に新たな開発方法論を完成させた。名付けて「NTT DATA CoRe」。グローバルマーケティング本部長を務めるロブ・ラスムッセン氏は「全ての海外子会社に使ってもらう前提で展開中だ」と話す。

 システムインテグレーション(SI)だけでなく、アプリケーション開発、パッケージ導入、アプリケーション保守を請け負う「アプリケーション・マネジメント・アウトソーシング(AMO)」などの手順を標準化。開発手法はウォータフォール型に加えてアジャイル型も使えるようにした。

 開発方法論をCoReに一本化したことによって、世界の技術者が共同作業しやすくなった。全世界で人材リソースを共有できるので技術者の稼働率を引き上げやすくもなる。

 成功事例やノウハウを世界で共有しやすくなったのもメリットの1つだ。日本の品質管理やドイツの大規模アジャイル開発といった成功事例を共有し、その他の地域で活用できる。

 グローバル案件が増えればNTTデータ内の連携が促進され、さらに次のグローバル案件を取りやすくなる。方法論の一本化で成長に向け好循環を描けるとにらむ。

図 グローバル企業として成長するためのシナリオ
各国・地域で「和」を基に強くなる
図 グローバル企業として成長するためのシナリオ
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地道に各地域でのシェアを上げる

 ただCoReが浸透したところでグローバル企業の顧客が一気に増えるわけではない。「まずは各地域で地道にシェアを伸ばし、NTTデータの知名度を上げ、グローバル企業に地道にアピールしていくしかない」と、ラスムッセン本部長は正攻法を説く。

 岩本社長は米国やドイツなどの主要国では「ITサービス分野でトップ10に入りたい」と意気込む。トップ10に入ると、その国でのシェアがだいたい2%を超えるという。

 現在は「モザイク」型であるものの、NTTデータ全体にとってみれば各地域に強みのある分野を作る効果があった。無駄もあったが、成長の種を蒔いてきたともいえる。例えば米国の医療・保険分野では年間約1500億円を売り上げている。銀行では米バンク・オブ・アメリカや米シティグループなども加わった。もともとデルのITサービス部門などの顧客だった会社だ。

 デルのITサービス部門が持っていたインドのチェンナイやコインバトールの拠点は米国医療保険関連企業向けの事務作業を請け負うBPOサービスを提供している。買収により、専門知識が必要な医療分野の事務に特化した人材の大量獲得も果たせた。

 BPO拠点に最新技術を取り込んで業務効率を高めている。インドの子会社NTTデータサービシズのカーンBPOプレジデントは「デルのITサービス部門買収後、BPO拠点は約8500人で約1万500人分の作業量をこなせるようになった」と明かす。新たに増やせた2000人分の作業はRPA(ロボティクス・プロセス・オートメーション)を導入して省力化した成果だ。

本社の海外本部長に初の外国人

 海外シフトに向け、2017年7月に豊洲本社の組織も改革した。公共・金融・法人という伝統的な日本事業に海外事業を加えた4分野の体制を、「EMEA(欧州・中東)・中南米」「北米」「日本・APAC(アジア太平洋地域)」という3地域別の体制に改めた。NTTデータ最大の組織再編だ。

 新体制で事業部の上に立ち、日本と海外の事業の境界を無くす役割を担うのがグローバルマーケティング本部だ。従来は海外事業部の一部門に過ぎなかった組織を格上げした。

 本部長に就任したラスムッセン氏は米国出身。米ITベンダー在籍時にインドや日本での事業に20年以上携わってきた。「日本人以外が日本本社の本部長に就任したのは当社設立29年目で初めて」(西畑副社長)という。

 同氏の下、海外の各地域をまたいだ開発や保守・運用案件など「和」が必要な案件は、豊洲本社のグローバルマーケティング本部が「頭脳」となり人材連携やプロジェクト進行を指示する。

 新体制が示すのは、もはや日本市場は全世界の1つでしかないという事実。NTTデータの日本の顧客にも変革の時が来ているといえる。

図 NTTデータが2017年7月に実施した組織再編
グローバル横断機能を本社に格上げ
図 NTTデータが2017年7月に実施した組織再編
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