NTTデータや野村総合研究所などITサービス企業の強みと課題は──。2016年度の連結売上高500億円以上の大手30社を順位付けして分析した。着眼点は売上高と収益力(売上高営業利益率)、成長性(売上高の伸び)の三つ。調査の結果、グローバル化やビジネスモデル変革に向けた取り組みなど、ITサービス企業の新たな動きも見えてきた。空前の技術者不足の折、従業員にどれだけ報いているかも調べた。給与ランキングと役員報酬も併せて掲載する。(広田望、斉藤壮司)

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 金融機関の大型システム更改案件や製造・流通業界の積極的な投資により、ITサービス企業の2016年度業績は良好だった。過去最高益を達成したITサービス企業があり、2017年度予想でもさらなる成長を見込んでいる。

 技術者不足が深刻化しており、ITサービス企業は受託開発の案件数を容易には増やせず、売上高を伸ばしにくい。一方で、引き合いが多いため不採算リスクが少ない好条件の案件を選びやすい。実際、売上高が500億円以上の上場企業30社の売上高の合計は2015年度比3.6%増と小幅の増収だが、営業利益は同9.1%増えた。

 ITサービス企業各社の2016年度の連結業績をみると、売上高トップは1兆7324億円のNTTデータだ。飛び抜けた売上高を前期比7.3%増とさらに伸ばして2位以下との差を1兆円超に広げた。米デル(現デルテクノロジーズ)のITサービス部門の買収を2016年11月にほぼ完了したとして、3カ月分の売り上げを計上したことなどが寄与した。

 デルテクノロジーズのITサービス部門の業績が本格的に反映される2017年度の売上高予想は2兆600億円と、初の2兆円超えを見込む。海外売上高は9080億円と海外比率が50%に迫る。

 ランキング2位は大塚商会だ。前年度3位から浮上した。売上高は6434億円。PCなどオフィス機器やセキュリティ対策ソフトウエアの販売が中小企業を中心に好調で、前期比5.6%増収だった。2017年5月30日から施工された個人情報保護法の改正やランサムウェアの被害報道などがPCの買い替えやセキュリティ対策ソフトの需要を後押しした。

 3位のキヤノンマーケティングジャパンは2年連続の減収で売上高は6293億円。前年度の2位から順位を一つ下げた。デジタルカメラの出荷減や、複合機を購入せずにレンタルで済ます顧客の増加などが減収の要因。システム開発やパッケージ導入などを請け負う「SIサービス事業」は金融機関や製造業を中心に案件が拡大し増収を確保した。

表 ITサービス企業の売上高ランキング(売上高500億円以上の上場企業)
NTTデータが2位に1兆円超の差をつけた
表 ITサービス企業の売上高ランキング(売上高500億円以上の上場企業)
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CTCが4000億円超えで最高益

 5位の伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)の売上高は4078億円。2006年の伊藤忠テクノサイエンスとCRCソリューションズの経営統合以来、初の4000億円超えを達成した。コンビニエンスストアや通信事業者の案件獲得が寄与した。円高の影響でドル建てで仕入れるサーバーやネットワーク機器の原価が下がり、営業利益も過去最高だった。

 17位の菱洋エレクトロは売上高が984億円と前期比12.4%減。大手30社のうち唯一の二桁減収となった。ITサービス事業は前年度からほぼ横ばいの400億円だったものの、半導体デバイス事業が中国の需要減と熊本地震の影響を受けたという。営業利益は2015年度に計上した在庫廃棄などの損失がなくなり56.6%増の大幅増益だった。

 20位のJBCCホールディングスは3年連続の減収で売上高は832億円だった。2016年度は子会社だったアドバンスト・アプリケーションが連結から外れた影響などが減収の要因となった。2017年度予想では前期比24.3%減と引き続き減収を見込む。機器販売などを手掛ける子会社であるイグアスの株式譲渡が主な要因だ。一方、営業利益率はシステム開発の高速化技術の導入やクラウド事業の推進で改善傾向にある。

 ランキング30位はソフトバンク・テクノロジー。初のランクインとなった。ソフトバンクグループ向けのシステム開発や機器販売などで売上高を伸ばした。売上高は502億円。2016年度に売上高が500億円を切ってランキング対象から外れた企業はなかった。

収益力ランキング
利益率45%、不動の首位のオービック

 収益力(売上高営業利益率)ランキングも作成した。首位はオービック。長年にわたり不動のトップだ。営業利益率は45.3%と2位以下に大差をつけた。2017年度の営業利益率は46.2%と、さらなる収益力の成長を見込む。同社の主要事業はERP(統合基幹業務システム)「OBIC7シリーズ」の販売と運用サポート業務。2016年度は大企業へのERP導入が拡大し、クラウド型でERPを提供する事業も好調だった。売上高は600億円を超えた。

表 ITサービス企業の収益力ランキング
SCSKとDTSが営業利益率10%超に
表 ITサービス企業の収益力ランキング
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 収益力2位は野村総合研究所。営業利益率は2015年度と同水準の13.8%だ。証券会社や保険会社向けの製品販売やシステム開発が伸び悩み、期初に予想した14.3%には届かなかった。2017年度は2016年12月に買収を完了したオーストラリアのASGグループの業績を通期で計上し、営業利益率を0.1ポイント伸ばして13.9%になると予想する。

 3位のTKCは野村総合研究所と0.6ポイント差の13.2%まで詰め寄り、順位を一つ上げた。同社は中堅企業向けの会計システムやマイナンバー管理支援システムなどをクラウド型で提供する。利益率の高いクラウドサービスが利用者を伸ばした。

 4位の兼松エレクトロニクスも2.7ポイント増の13.1%で前年度6位から浮上した。2016年度は製造・流通事業者などからストレージ導入案件の引き合いが増えた。大型の機器導入案件でオールフラッシュストレージなどの仕入れ値を抑えて利益率を高めた。機器メーカーから過去の販売実績で高評価を得て、サーバーやストレージの仕入れ値の交渉が堅調に進んだという。

 前年度3位から5位へと順位を落としたのはNSDだ。ただ同社の営業利益率は2015年度から0.6ポイント増えて13.0%へと成長している。収益力の高いランキング上位の企業はさらなる利益率向上に努め、順位の入れ替わりが激しくなっている。

SCSKが利益率二桁を達成

 7位のSCSKと8位のDTSは営業利益率が二桁を超えた。SCSKは期初予想の営業利益率10%を超える10.2%を達成した。売上高が3000億円を超えるITサービス企業では、野村総合研究所に次いで2社目の二桁到達だ。2017年度には10.6%を予想している。8位のDTSは売上高が減ったものの、プロジェクト管理を強化するなどの取り組みが原価率の改善につながった。

 売上高で首位のNTTデータの営業利益率は6.8%。悪くはないが、飛びぬけて良くもない。ランキングは13位と中位だ。公共・金融向けの事業で不採算案件が減少したが、グローバルセグメントは買収に伴う一時的費用などがかさんで赤字だった。

成長性ランキング
BPO企業が高成長を達成

 大手ITサービス企業の成長性(売上高伸び率)も比較した。2016年度に二桁の伸び率を記録したのは2社のみ。2017年度予想でも二桁の伸び率を見込むのは2社と、大手ITサービス企業の成長は小休止の様子。技術者不足が深刻化する各社は案件数を増やしにくく、売上高を大きく伸ばせずにいる。

表 ITサービス企業の成長性ランキング
金融特需で予想を超える成長
表 ITサービス企業の成長性ランキング
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 18.0%の伸び率で1位になった、りらいあコミュニケーションズはBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)事業が好調だった。トランス・コスモスもBPO事業が好調で4位にランクイン。伸び率は7.9%だった。ユーザー企業が攻めのITに注力するため、従来の業務システムの運用管理などを外部委託する機運が高まっている。

 2位にランクインしたのは2016年度に売上高が500億円を超えたソフトバンク・テクノロジーだ。ただし、増収に貢献したのはソフトバンクグループ向けのシステム開発や大型の機器販売。急成長するグループに引っ張られて売上高を伸ばした格好だ。

 ネットワンシステムズは伸び率8.3%で3位にランクインした。公共機関向けのネットワーク関連事業が増収に貢献した。なかでも自治体向けのセキュリティ対策案件が増えたことが主な増収要因という。標的型攻撃による日本年金機構の個人情報漏洩事案を受けたガイドラインの策定が追い風となった。

NTTデータは2017年度に18.9%増

 5位に7.3%の伸び率でランクインしたNTTデータは、2017年度に29社中で最も高い伸び率の18.9%増を予想している。海外でのM&Aにより売上高で2位以下をさらに引き離すとともに、成長性でもダントツ1位を見込む。主な増収要因は2016年度に買収したデルテクノロジーズのITサービス部門の売り上げ計上だ。

 NTTデータの買収戦略には技術者数に依存した業態からの脱却を目指す意図もある。同社は2016年11月に車載機向けシステム開発を得意とするシャープのシステム子会社の買収を発表。2017年3月には重電大手である三菱重工のシステム子会社の買収を発表している。IoT(インターネット・オブ・シングズ)を活用したソリューションビジネスに買収企業のノウハウを生かす考えだ。

 21位の野村総合研究所も技術者数依存の業態脱却につながる買収をした。2016年度に約3カ月分の業績を計上したオーストラリアのASGグループの買収だ。ASGグループはERPや経営データ分析システムの運用をクラウド上で担うマネージドサービスが中核事業。同社の業績の通期計上が寄与して2017年度は前期比8.4%増収を見込む。

 6位にランクインしたNSDは期初に予想した2.7%を大幅に上回る7.1%の伸び率を記録した。システムを受託開発する「システムソリューションサービス事業」について、金融機関などからの受注が好調だったのが主な増収要因とする。同社は2015年度にも同じく受託開発案件の好調を理由に20%の大幅増収を記録している。

 新日鉄住金ソリューションズや三菱総合研究所、キヤノンマーケティングジャパンなども金融機関向けのITサービス事業が好調だった。「金融特需」はITサービス企業の予想を上回る規模だったようだ。

給与ランキング
野村総研と三菱総研が1000万円超

 上場企業が公開する2016年度の有価証券報告書を基に、事業の成果に対して企業が従業員に支払う給与をランキングにした。コンピュータメーカーの日立製作所、富士通、NECと上場している外資系ITベンダーの日本オラクルも参考値として組み込んだ。取締役の平均報酬額も調べた。

表 平均年間給与ランキングと取締役平均報酬
富士通の平均給与が800万円を下回る
表 平均年間給与ランキングと取締役平均報酬
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 2016年度の平均年間給与は、売上高500億円以上の大手ITサービス企業30社の平均で738万円。金額は残業代やボーナスを含む。取締役の平均報酬は30社の平均で3008万円だった。全体平均で比べると、従業員の給与は取締役の報酬額のおよそ4分の1だ。

 野村総合研究所の平均給与は1151万4000円と前年度から減額したものの、2016年度も首位を維持した。ITサービス企業2位を維持した三菱総合研究所は前年度比5%増の1031万6000円で、1000万円の大台に乗った。同じく3位を維持した電通国際情報サービスは同11%増と二桁伸びた。

 ランキング4位の都築電気、5位のオービックの平均給与は日立製作所を上回った。都築電気は前年度比0.7%増で857万6000円、オービックは同3.4%増で851万円だった。2016年度に営業利益率二桁を達成したSCSKとDTSの平均給与は30社の平均額である738万円を下回った。SCSKは726万5000円、DTSは619万7000円だった。

 TIS(旧ITホールディングス)の平均給与は前年度から17%も減り、653万3000円になった。純粋持ち株会社が子会社を吸収して事業会社へと変わったことが主な要因だ。平均年齢も約8歳若返って38.7歳になった。

表 主なITサービス企業の報酬総額1億円超の役員
オービックは役員報酬でも存在感
表 主なITサービス企業の報酬総額1億円超の役員
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報酬1億円超えも夢じゃない

 取締役平均報酬額では日本オラクルが8550万円と飛び抜けている。ITサービス企業30社中では、野村総合研究所が6077万8000円と首位だが、日本オラクルに2000万円以上の差を付けられている。

 オービックの平均報酬額は5660万円で、ITサービス企業では2位。売上高では24位にとどまるが、営業利益率では45.3%とダントツの首位であるオービックが、役員報酬でも存在感を示した。外資系ITベンダー並みの収益力が報酬額にも反映された形だ。

 報酬額が1億円を超えると有価証券報告書で報酬総額や氏名が公開される。34社中で報酬総額が1億円を超える役員を表にまとめた。報酬総額1億円を超える役員が最も多かったのは日立製作所で7人だった。

 ITサービス企業30社の中ではオービックの橘昇一社長兼COO(最高執行責任者)の報酬額1億9500万円が際立っている。売上高9兆円を超える日立製作所の東原敏昭社長兼CEO(最高経営責任者)の報酬総額2億900万円に迫る金額だ。オービックは野田順弘会長兼CEOも1億円超の報酬を得ている。

 その他のITサービス企業役員の報酬額では、キヤノンマーケティングジャパンの村瀬治男会長が1億3800万円、野村総合研究所の此本臣吾社長が1億400万円だ。昇進すれば高額報酬も夢ではない。“1億円プレーヤー”の存在は、ITサービス企業の従業員のモチベーション向上につながりそうだ。