写真:Getty Images
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NTTデータが8連覇を果たし、5年ぶりの2位復活の富士通が猛追──。2018年入社予定の学生を対象としたIT業界就職人気ランキングは上位から下位まで順位が目まぐるしく変動した。コンサルティング会社や大手企業のシステム子会社が好調な一方、ネット系企業の人気は踊り場だ。「働き方」への社会的関心の高まりなどIT業界を取り巻く環境が変化するなか、ランクを上げた企業は優秀な人材をどのように取り込もうとしているのか。ランキング結果と共に見ていこう。

図 IT業界における就職人気の総合ランキング
コンサルティング会社のランキングが上昇
図 IT業界における就職人気の総合ランキング
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 楽天の口コミ就職情報サイト「みんなの就職活動日記(みん就)」と日経コンピュータ、日経BPイノベーションICT研究所は2018年4月入社予定の学生を対象に「IT業界就職人気ランキング」調査を実施した。2010年から毎年調査しており、今年で8回目となる。

 ランキング100位以内に入ったIT企業を得票順に示した総合ランキングのトップはNTTデータ。調査開始以来、8年連続で首位の座を確保した。

 2位は富士通だ。2015年と2016年は2年連続でグーグルに続く3位だった。富士通が2位まで順位を上げたのは5年ぶりだ。

 4位以下で際立つのはコンサルティング会社や総合研究所の躍進ぶり。8位の野村総合研究所は前回12位、10位のアクセンチュアは同11位からランクアップした。2社とも2014年以来のトップ10入りだ。

 22位のアビームコンサルティングも前回24位から順位を上げた。29位の大和総研ホールディングス(同54位)、40位のPwC Japan(同92位)も大幅にアップしている。

 みん就を運営する楽天の福地茂樹ヴァイスシニアマネージャーはコンサルティング会社の人気の高さについて、「人工知能(AI)など新しいデジタル技術の台頭を背景に、技術系の学生だけでなく文系などIT業界に興味を持っていなかった層からも広く支持を集めている」と分析する。

 ユーザー系SI(システムインテグレーション)企業の健闘も目立つ。SCSKが前回6位から5位、新日鉄住金ソリューションズが同14位から12位にランクアップした。

 50位以内では、ユーザー系の中でも金融や社会インフラを担う企業のIT子会社の人気ぶりが顕著だ。東京海上日動システムズは前回48位から35位、ニッセイ情報テクノロジーは同44位から37位、第一生命情報システムは同47位から39位へとアップした。JR東日本情報システムは同51位から43位、ANAシステムズは54位から45位につけている。

 ここ数年、台頭していたネット系企業の人気は昨年から伸び悩みの傾向が続く。けん引役のグーグルは3位と順位を一つ落とし、7位のヤフー、13位のLINEは昨年と同じ順位にとどまった。34位のディー・エヌ・エー(前回30位)、58位のドワンゴ(同40位)、61位のグリー(同45位)、65位のカカクコム(同38位)はそれぞれランクを下げている。

働き方が就職先選びの焦点に浮上

 今回のランキングからは「安定志向の学生が増え、大手重視が一段と進んでいる」(楽天の福地氏)傾向がうかがえる。

 日本経済団体連合会(経団連)の指針に基づく企業の広報活動期間は2016年と同様、会社説明会など広報活動の開始時期が大学3年の3月、面接など選考活動の開始時期は大学4年の6月となっている。短期決戦の中で学生は業界や個別企業の研究に十分な時間を割きにくく、知名度や安定性などを重視して志望先を決める状況が続いている。

 長時間労働の是正など働き方改革やワークライフバランスが社会的な関心事となっていることも、学生の大手重視や安定志向に拍車をかけているとみられる。IT企業の新卒採用担当者は「残業時間や休暇の取得状況、福利厚生について質問を受けるケースが昨年より格段に増えた」と口をそろえる。

 依然として長時間労働のイメージが付きまとうIT業界。ランクを上げた企業の多くは、入社後の働き方やキャリアパスを学生に具体的にイメージしてもらう場づくりに力を入れている。

 富士通が今回取り組んだのは、インターンシップで受け入れる学生数の拡大やプログラム内容の多様化だ。2016年夏の職場受け入れ型インターンシップは前回の100人から160人、2017年初めに実施した1日限定型は900人から1600人に増やした。

 1日限定型のインターンシップは昨年まで1コースだったが、今回はきめ細かい情報提供ができるよう、IT業界の理解が深い学生向けとそうでない学生向け、システムエンジニア志望者向けの三つのコースを設置した。

図 2018年卒の学生の就職・採用活動の流れ
現在の就活は夏期インターンシップへの応募から始まる
図 2018年卒の学生の就職・採用活動の流れ
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 技術職・研究職を志望する女子学生に限定して富士通の女性従業員と交流できるイベントも新設。東京と大阪で計3回実施した。「時短勤務やテレワークなど様々な働き方が選べることを実感してもらえるようにした」と人事本部人材採用センターの中村智央マネージャーは話す。

 SCSKは以前から3日間のインターンシップで、学生が現場社員と直接対話できる機会を提供していた。今回は1日限定型インターンシップでも社員に直接質問できる回を設けた。3日間のインターンシップ参加者は前回の約320人から約400人、1日限定型は約1100人から約1400人へ拡大した。

 同社はここ数年でトップダウンでの働き方改革を進め、業績向上と両立していることで知られる。「残業時間が少ないのは仕事が楽になったというよりも、社員全員で業務効率化に集中してきた結果だ。そのことをインターンシップや説明会の場で正直に伝えるようにしている」と人事グループ人事企画部採用課長の大島航介氏は話す。

企業分野別は4分野で首位交代

 次に企業分野別の就職人気ランキングを見ていく。

図 企業分野別の就職人気ランキング
4分野で首位交代
図 企業分野別の就職人気ランキング
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 首位が交代したのは「金融ユーザー系SI」「商社ユーザー系SI」「その他ユーザー系SI」「コンサルティング/総合研究所」の4分野。これらの分野で上位の企業は総合ランキングも好調だ。コンサルティング/総合研究所で今回4位と初めてトップ5にランクインした大和総研ホールディングスは、総合でも54位から29位へと順位を上げている。

 大和総研ホールディングスが今回の採用活動で力を入れたのは、人物を前面に押し出すことだ。仕事内容の紹介が中心だった学生向けのWebサイトや会社案内を刷新し、社員が登場して日々の働き方を伝える内容にした。人事部人材開発課長の伊藤美雪氏は「自分が入社後にどんな社員と共に働き、どのようにスキルアップしていくのかといった、具体的なイメージがわくよう意識した」と説明する。

自社の個性が伝わっているか

 学生が「その企業をなぜ選んだのか」という志望理由別のランキングも見てみる。調査では「会社の魅力」「仕事の魅力」「雇用の魅力」という3分野を用意し、志望理由を尋ねた。

 それぞれの分野ごとに、五つの具体的なイメージと「特定のイメージはない」を加えた六つの選択肢を設定。志望する企業ごとに志望の理由を聞き、その結果から回答率の高い企業順にランキングを作成した。例えば「技術力がありそう」では、日立製作所に就職を希望する学生の36.1%がこの選択肢を選んだことを表す。

 志望理由別ランキングでは「自社の特徴を学生に印象づけることができているか」が浮き彫りになる。毎年変動が大きいが、「教育研修に熱心そう」では富士通エフサスが4年連続、「製品・サービスの内容が分かりやすい」ではぐるなびが3年連続で首位を獲得している。「技術職や営業職など業務の幅が広い」のオービックと「社風・居心地が良さそう」の都築電気も2年続けて1位となった。これらの企業は自社の特徴を学生にアピールできているといえそうだ。

 金融ユーザー系SIの中で最も人気が高かった東京海上日動システムズは、志望理由別ランキングの「安定していそう」でも首位に立った。同社の鈴木常弘人事部マネージャーは今回の採用活動について「学生からのアクセスを待つだけでは優秀な人材は獲得できない。学生が集まっていそうな場があれば地方でも積極的に顔を出すようにした」と話す。

 具体策の一つが、フリースペースを舞台にした学生と企業のマッチングイベントに参加すること。2017年1月から全国で合計7回参加した。1回につき30人程度の学生と接点を確保できたという。

 複数の項目でランキングを大きく上げた企業もある。「ITなど専門スキルが身に付きそう」で首位を獲った富士ソフトは「教育研修に熱心そう」で2位、「技術力がありそう」でも5位に食い込んだ。同社は総合ランキングでも順位を上げて49位に入った。

図 志望理由別ランキング
「専門スキルが身に付きそう」の首位は富士ソフト
図 志望理由別ランキング
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図 志望職種別の就職人気ランキング
SE志望者が多いのはニッセイ情報テクノロジー
図 志望職種別の就職人気ランキング
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NTTデータは全業種で12位から20位へ

 調査ではIT業界で担当してみたい仕事(職種)を尋ね、志望する割合が高い順にランク付けした志望職種別ランキングも実施している。システムエンジニア/プログラマで1位のニッセイ情報テクノロジーの場合、同社を志望する学生の65.5%がこの職種を選んだことを意味している。「セールスエンジニア」ではキヤノンマーケティングジャパンが58.7%、「経営・業務コンサルタント」ではPwC Japanが68%で1位だ。

 全業種における就職人気ランキングをみると、ここ数年にわたり着実に順位を上げてきたNTTデータが前回12位から20位にランクを下げた。アクセンチュアは同35位から37位、野村総合研究所は同38位から58位へ下がった。一方、SCSKは同55位から54位に上がった。

図 全業種の人気ランキング
NTTデータは昨年12位から20位に
図 全業種の人気ランキング
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 IT業界は他の業界に比べ、学生が具体的な仕事内容を想起しにくい面がある。学生に有利な売り手市場だけに、人気の面では余計に不利に働いたとみられる。

 IT業界に入りたいと考える学生にも変化が生じている。IT業界への志望理由で、最多回答の「社会に役立つ仕事ができる」は前回の39.7%から41%と微増だった。一方で「ITなど専門スキルが身に付きそう」が32%から29.2%、「実力があれば若いうちから活躍できそう」は16%から14.3%に減少した。

図 IT業界を志望する、IT業界に興味を持つ最大の理由
最多回答は「社会に役立つ仕事ができそう」
図 IT業界を志望する、IT業界に興味を持つ最大の理由
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 楽天の福地氏は「情報感度の高い学生が2016年夏ごろから就職活動を始める一方、2017年に入ってから動きだす学生も減っていない。二極化の傾向が定着している」と話す。IT企業はここ数年、インターンシップの実施時期を前倒ししたり回数を増やしたりして両方の層にアプローチを強化してきた。

 ただ、いったん築いた学生との接点を選考開始まで確実に維持するための負担も増えている。「採用担当者から定期的なアプローチがあるかどうかで、学生側も企業を選んでいる」(富士通の中村マネージャー)。採用担当者にとっては油断できない時期が続く。

学生の5人に4人がインターンシップ参加

 IT業界を志望する学生の8割以上がインターンシップに参加している──。今回の調査から、インターンシップが就職活動の一般的な手法として定着しつつある実態が浮かび上がる。

 1社以上参加した学生は前回75.4%から81.2%に増加。2社以上も同54.9%から63.6%に増えた。会社説明会などの代わりにインターンシップを強化する企業が増えていることが背景にある。

 経団連が加盟企業に求める2018年卒学生向けの採用スケジュールでは、企業が学生への広報活動に費やせる期間は2017年3月初めから5月末までの実質3カ月に限られている。就業体験であるインターンシップなら広報活動に先行して自社の知名度を向上させ、有望な学生を囲い込めるので有効だと、多くの企業が捉えている。

 今回の調査でランクアップした企業はインターンシップだけでなく、参加した学生をフォローし、その後の広報・採用活動につなげる取り組みにも力を入れている。

 大和総研ホールディングスは今回、インターンシップ参加者を対象とする相談会の回数を増やした。従来は冬に1回実施していたが、今回は秋にも追加した。その場に社員も参加し、会社を身近に感じてもらえるよう意識したという。

図 インターンシップへの参加状況
「参加した」人が8割超
図 インターンシップへの参加状況
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ハッカソンで優秀者を開拓

 インターンシップは一般に、職場に学生を一定期間受け入れる形式と、本社や研修センターで短期集中型の体験プログラムを提供する形式がある。加えて最近目立ち始めたのが、新たなシステムやITサービスのアイデアと開発力を短期間で競うハッカソンだ。

 SCSKは以前から技術部門が実施していた社内技術者向けのハッカソン「テクのこ」について、新たに学生の参加を受け付けるようにした。対象を2018年卒の学生に絞り、技術に特化したイベントを通じて優秀な技術系学生との接点を増やす。SCSKの大島氏はハッカソンについて「学生の潜在能力や適応性を見るというよりも技術力の高い、とがった人材を探すのに適する」と評価している。「テクのこに参加して当社を志望する学生も何人か出てきた」(大島氏)。

 経団連は2017年4月10日、2019年入社予定の学生に向けた採用ルールを発表。5日以上だったインターンシップの日数規定をなくして1日から可能にした。加盟企業に先んじて1日のプログラムを多発し学生を取り込んできた企業は今後、同じ土俵に立つことになる。