買い手と売り手、社会の三方が満足する「三方よし」のビジネス企画は、メディアや自治体、国の支援を受けられ、ビジネスを拡大させやすい。三方よしの企画を着想しやすくなる「三方メリット分析法」を解説する。

 「西部課長、地域通貨を盛り上げるビジネス企画について、何かいいアイデアはないでしょうか」

 システム企画室の岸井雄介は、休憩室でコーヒーを飲んでいる経営企画課長の西部和彦に聞いた。

 「どうした?以前に岸井が企画した地域通貨『コザルコイン』は大好評で、150%の売り上げ増と聞いているぞ。国内や海外の利用者が自分のスマートフォンを使って円やドルからコザルコインにチャージすれば、1%の割増プレミアムが付くんだろ?楽しい仕事になって良かったな」

 「コザルコインがウチの経営層や地域の店舗に好評だったのは良かったんですが、さらにビジネスを拡大しようとの話になって困っているんです」

 「皆に喜ばれたビジネスを拡大するのに、なぜ困るんだ?」

 「地域通貨ビジネスを拡大するとすれば、対応する店舗の数を増やすのが早道ですよね。ただ、地域の店の数に限りがあり、それ以上は増やしようがないんです」

 「なるほど、そういう悩みか…。岸井らしいな。今回は誰と一緒に仕事をしている?」

 「新規ビジネス企画課の川田次長です。コザルコインの今後の拡大策を次長に説明したら『企画が皆の心に響かない』って不機嫌なんです」

図 企画が皆の心に響かないプレゼンの例
共感を生むビジネスを作るには
図 企画が皆の心に響かないプレゼンの例
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 岸井雄介は35歳、西日本の地方銀行A銀行に入社以来システム開発に従事し、現在はシステム企画室の課長補佐である。最近A銀行が買収したFinTech子会社F社の企画部と兼務になり、さらにグループ横断的検討プロジェクトのメンバーになった。

 西部和彦は37歳、A銀行でシステム企画の仕事を長く担当し、多くの仕事を成功させてきたエース人材で、岸井の大学の先輩でもある。出向していたITコンサルティング会社から復帰し、多くの仕事を成功させた貢献が認められ、経営企画課長に昇進した。

 岸井は現在、新規ビジネス企画課と一緒に地域通貨のビジネスを拡大させる企画を検討している。

 A行の商圏となる地域は人口減と企業減により、今後の収益拡大の可能性が減っている。

 そこでA行は地域の企業や店舗と協力して、国内や海外からの旅行客に地域の観光名所や宿泊、飲食、お土産、スポーツ体験、登山などの商品・サービスを販売し、収益を得るビジネスモデルに力を入れている。

 しかし、地域は決済の面で課題があった。A行の支店は3店舗あるものの、コンビニエンスストアが少なく、海外の旅行客は現金を引き出す場所が少なかった。クレジットカードを使える店舗も少なかった。旅行客は地域の飲食店を利用したりお土産物を買ったりしたいと思っても手持ちの現金がなく、購入につながらない。このことが店舗の売り上げが伸びない原因だった。

 そこでA行が中心になり、スマホアプリを使った地域通貨「コザルコイン」を導入した。昔から子猿がこの地域の商売繁盛のシンボルであることが名前の由来である。コザルコインをチャージするには地域のコンビニで現金を支払うか、アプリにクレジットカードの情報を登録して決済すればよい。

 商品・サービスを購入する時は、スマホで店舗のQRコードを読み込み、決済額を入力するだけで、決済が即時完了する。コザルコインは、10店舗での試験を実施したところ好評だったため、本番サービスでは地域内の80%の店舗に拡大した。3カ月後の導入効果は各店舗の売り上げが平均150%増と好調だった。

 これに気を良くしたA行の経営層や地域の企業、店舗、商工会議所は、地域通貨ビジネスに高い成長の可能性があると考え、ビジネスをさらに大きくしたいと考えた。

 この検討の担当に指名されたのが、新規ビジネス企画課の川田次長とシステム企画室の岸井である。岸井はコザルコインを使った客や店舗の声を情報収集し、ビジネスの拡大策について考え、川田次長に説明した。*

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