ハイパーコンバージドシステム(HCI)が注目を集めている。サーバーに加え、ストレージまで仮想化した基盤は手間いらず。システムの導入やキャパシティの拡張を、ユーザー主導で行える。「次世代インフラ」の座を勝ち取ろうと、米ニュータニックスや米デルテクノロジーズ、米ヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)や米シスコシステムズなどが矢継ぎ早に製品を投入している。製品動向、ユーザー事例の両面からトレンドに迫る。(森山 徹)

写真:Getty Images 写真提供:日本ヒューレット・パッカード、シスコシステムズ、ニュータニックス・ジャパン、EMCジャパン
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 「システム拡張や、老朽化に伴うハード更改に標準対応しているアプライアンス」。ハイパーコンバージドシステム(HCI:hyper-convergedinfrastructure)製品を自行のITインフラに採用した北陸銀行 執行役員の多賀満氏は、HCIをこう評価する

 HCIはPCサーバー(ノード)を並べ、スケールアウトで性能を高めるアーキテクチャーを持つ。サーバー仮想化ソフトとストレージ仮想化ソフト、管理ツールで構成する。各ノードの内蔵ストレージを仮想化し、共有プールとして利用するのが特徴だ。

 オリックス生命保険もHCIを採用した。「1社でリソースプールを作ろうと考えたとき、従来のコンバージド製品はプールサイズが大き過ぎるし、扱いづらい。HCIを採用したことでスモールスタートし、ノード追加でこまめに拡張できるようになった」(同社 常務執行役員の菅沼重幸氏)。

 こうしたニーズに押されるように、ベンダー各社の製品開発競争も激しさを増す。次世代インフラとして期待が高まるHCI。各ベンダーが提供するHCI製品の特徴と、ユーザー企業による活用法の動向を見ていこう。

Dell EMCのHCI製品が登場

 HCIで先頭を走るのは、2011年の製品投入から市場を切り開いてきた、新興ベンダーの米ニュータニックスである。

 対抗馬の一番手は、米デルによる米EMC買収で2016年9月に誕生した米デルテクノロジーズだ。2016年11月16日には、「Del lPowerEdge」をベースにした「Dell EMCVxRail 4.0」を日本市場に投入すると発表。ラインアップ拡充で、多様なニーズの取り込みを狙う(図1)。

図1 Dell EMCのハイパーコンバージド製品「VxRail 4.0」のラインアップ
「Dell PowerEdge」をベースに5シリーズを展開
図1 Dell EMCのハイパーコンバージド製品「VxRail 4.0」のラインアップ
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 デルテクノロジーズのHCI製品は、CPU性能やメモリー容量、ストレージ容量などが異なる複数のモデルを用意。アプリケーションの負荷特性などに応じて、ユーザーは適切なモデルを選べる。VxRail 4.0は、同3.5の後継に当たる「高集約モデル」に加え、パフォーマンスやディスク容量に特化したモデル、VDI(仮想デスクトップ)に最適化したモデルなどをそろえた。

 VxRailの導入は難しくない。ユーザーは管理ツール「VxRail Manager」の画面から、IPアドレスやストレージの構成などをパラメータで入力。「VxRailは構成情報に基づき、200ステップにおよぶセットアップ作業を15分~20分で自動実行し、仮想マシンを作成する準備が整う」(EMCジャパン 企画部 部長 ハイパーコンバージド アプライアンスリードの小川高寛氏)。

すぐに使えるストレージ仮想化ソフト

 VxRailは、ヴイエムウェアのHCIソフト「VMware HCS(ハイパーコンバージドソフトウエア)」を搭載する。VMware HCSは、サーバー仮想化ソフト「VMware vSphere」、ストレージ仮想化ソフト「VMware VirtualSAN(VSAN)」、サーバー管理ツール「VMwarevCenter Server」から成る。

 HCI製品の差異化ポイントの一つは、ストレージ仮想化ソフトにある(図2)。

図2 ヴイエムウェアのハイパーコンバージド・ソフトウエア(VMware HCS)
ヴイエムウェアはストレージ仮想化ソフトを内蔵
図2 ヴイエムウェアのハイパーコンバージド・ソフトウエア(VMware HCS)
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 「vSphereに組み込み済みのVSANは、ライセンスを追加すればすぐに利用開始できる。vSphereの操作でストレージを管理できるのもメリットだ」(ヴイエムウェア マーケティング本部 プロダクトマーケティングマネージャの高橋洋介氏)。

 SSD(ソリッドステート・ドライブ)とHDD(ハードディスク・ドライブ)を併用するモデルでは、VSANはSSDをキャッシュとして利用する。2016年10月に発表した最新版VSAN 6.5で自社のコンテナ環境でも利用可能にするなど、機能強化は続く。

 VMware HCSの搭載製品は、アプライアンス型のVxRailのほか、「Virtual SANReady Nodes」認定パートナーが自社製サーバーに組み込んで出荷する。パートナーにはシスコシステムズやヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)、日立製作所や富士通などが名を連ねる。

I/Oの高速化を図るNutanix

 デルテクノロジーズのVMware HCS搭載製品を迎え撃つ、ニュータニックスの「Nutanix」ブランド製品群。ハイパーバイザーとして、vSphereだけでなく、米マイクロソフトのHyper-V、自社開発のAcropolisHypervisorから選べる。VMware VSANとは異なり、ストレージ仮想化機能をハイパーバイザーの内部に実装していないので、ハイパーバイザーの選択肢が多い(図3)。

図3 Nutanixを支えるアーキテクチャーの特徴
分散ストレージの性能追うニュータニックス
図3 Nutanixを支えるアーキテクチャーの特徴
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 各ノードに管理VM(仮想マシン)を用意して分散ストレージファブリックを構成し、I/O要求を制御する。「I/O要求は管理VMが受けて、パススルー機能でハイパーバイザーを経由せずにディスクに対してアクセスする」(ニュータニックス・ジャパン Sr. SystemsEngineering Managerの露峰光氏)。

 分散ストレージファブリックの構成方法やデータ配置の工夫により、I/Oの高速化を図っている。SSDとHDDのハイブリッド構成では、データの利用頻度に応じて格納先を分ける。VMからのI/O要求がノードをまたがらないように、「なるべくローカルディスクにデータを書き込んでいる」(露峰氏)。こうしたデータローカリティ(配置場所)の担保は、他製品にはない特徴だ。

選択肢が豊富なHPE

 HPE日本法人の日本ヒューレット・パッカードは、2015年3月からHCI製品を展開している。「CPUの性能向上は著しいし、ストレージはSSDが主流になってきた。ハードウエアの進化がHCIを後押ししている」。同社サーバー事業統括本部 コンバージド・データセンター製品部の尾崎亨氏は事情をこう説明する。

 主な製品は「HPE Hyper Converged 250System(HC 250)」と「HPE Hyper Converged380 System(HC 380)」の二つ。HC 250は4ノードのサーバーがベースで、ハイパーバイザーはHyper-VまたはvSphereが選べる。

 2016年春に投入したHC 380は同社製サーバー「HPE ProLiant DL380 Gen9」をベースにした製品(図4)。「CPUやメモリー、ディスクの選択肢が多いのが特徴。HCIの在庫を持っているわけではなく、注文を受けて、DL380をベースに工場で組み立てる」(日本ヒューレット・パッカード サーバー事業統括本部コンバージド・データセンター製品部の梁瀬東子氏)。

図4 HPE Hyper Converged 380 Systemの概要
CPU、メモリー、ストレージの組み合わせが豊富なHPE
図4 HPE Hyper Converged 380 Systemの概要
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 各種ツールを組み込み、導入や運用を手厚く支援する。HPE OneView InstantOnはセットアップを自動化。HC380 ManagementUIは、リソースプールの利用状況を表示したり、仮想マシンの作成を支援したりできる。サーバー全体の統合管理はHPE OneViewが担う。

 ストレージ仮想化ソフトは「HPE StoreVirtual VSA」を搭載。Nutanixと同様に「管理VMがディスクI/Oを制御するので、特定のハイパーバイザーにロックインされない」(日本ヒューレット・パッカード ストレージ事業統括本部 ストレージエバンジェリストSDSスペシャリストの井上陽治氏)。

HCI製品の混在制約に注意

 幅広いスペックのサーバーを提供するHC380だが、「負荷分散の観点から、追加するノードはCPUやメモリーのスペックを合わせてほしい」(尾崎氏)という。

 HPEの製品に限らず、HCI製品の混在には制約があるので注意したい。EMCジャパンの小川氏は「VSANの動きが異なるので、VxRailのオールフラッシュモデルとハイブリッドモデルは混在できない」と話す。

 ニュータニックスには自社アプライアンスのほか、ニュータニックス製のソフトを搭載した他社企業の製品として「Lenovo ConvergedHXシリーズ」や「Dell XC Webスケールコンバージドアプライアンス」がある。ただし「サポートの問題があり、同一クラスター(ノードグループ)に他社製品は交ぜられない」(ニュータニックス・ジャパンの露峰氏)という制約がある。

 利用製品が絞り切れない場合は、VDIやデータベースなど、用途に応じてクラスターを分けるのが得策だ。

ITベンダーの戦略を支える

 HCIは、PCサーバーベースの仮想化基盤であると同時に、ハイブリッドクラウドやインフラ自律化といった、各ベンダーのインフラ戦略を担う側面を持つ。

 インフラの自律最適化という戦略の中にHCI製品を位置づけるのがシスコシステムズだ(図5)。HCI製品「Cisco HyperFlex System」は、同社のサーバー「Cisco Unified ComputingSystem(UCS)」にハイパーバイザーと、ストレージ仮想化ソフト「Spring Path」を搭載する。「ハイパーバイザーは今はvSphereだけだが、今後Hyper-VやKVMも加える。ベアメタルにも対応していく」(シスコシステムズ データセンター/バーチャライゼーション事業担当部長の石田浩之氏)。

図5 シスコシステムズが考えるハイブリッドクラウド・アーキテクチャー
インフラの自律最適化を目指すシスコ
図5 シスコシステムズが考えるハイブリッドクラウド・アーキテクチャー
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 Spring PathはNutanixと同様、管理VMを使うストレージ仮想化ソフトで、「キャッシュにしたSSDから、HDDに対し順次に書き込んでパフォーマンスを高めている」(シスコシステムズ プロダクトマネージメント プロダクトマネージャの中村智氏)。

 データの分散手法にも特徴がある。「VMからデータを書き込む際は、クラスターを構成する全ノードに同時にストライピングし、VMの移動などに備える」(中村氏)。SpringPathは「米スプリングパスとシスコとの戦略提携により、エクスクルーシブ(独占的)な形でOEM(相手先ブランドによる生産)提供を受けている」(石田氏)。

 同社は、データセンター内のインフラとパブリッククラウドを一体運用したうえで、ポリシーに基づいた自律最適な運用を目指す。そのために、様々な管理ツールを連携させる。HyperFlexやUCSはUCS Directorで管理。UCS Directorは今後、ネットワークを管理する「ACI/APIC」と統合していく方針である。自律化の要となるのが「Cisco TetrationAnalytics」だ。VMやハードの稼働状況の情報を集め、可視化したり、管理ツールに指示を出したりする。

 ハイブリッドクラウドや自律運用は、ニュータニックスやヴイエムウェア、HPEも推し進めている。HCIはその実現に欠かせない戦略的な製品だ。

SI主導のインフラ構築に決別

 出そろってきたHCI製品、その採用を進めるのはどんな企業なのか。IDCジャパン エンタープライズ インフラストラクチャ マーケットアナリストの宝出幸久氏は「仮想化を一度経験し、管理が煩雑と感じるようなユーザーがHCIを採用するケースが多い。ノードを並べてスケールアウトさせる用途のほか、全システムを1台に納めるようなニーズにも応えているので、HCIは伸びている」と話す。

 SI(システム構築)ベンダー主導のインフラ構築に課題を感じ、HCI製品への転換に踏み切るのが北陸銀行だ。

 「5~6年ごとのハード更改やシステム拡張にSI費用が発生する。自分たち主導でパーツを組み合わせる形に変え、コストを下げたい。長期的に見て、インフラ維持コストを20%削減できると見込んでいる」。執行役員の多賀氏はHCI製品の採用理由をこう話す。

 従来型インフラとHCI製品のコスト構造を比べ、自分たちでHCI製品をこまめに増設していくと決めた。HCI製品はNutanixを選定している(図6)。

図6 北陸銀行が評価したNutanixのメリット
リソース拡張をこまめに、段階的に
図6 北陸銀行が評価したNutanixのメリット
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 「2015年から2016年にかけて要件を検討し、2016年7月から設計、構築、テストを実施。2017年1月のカットオーバーに備えている」(北陸銀行 総合事務部 IT企画グループ長の富永英司氏)。Nutanixを使った情報系基盤の構築では、まず9000人に上る仮想デスクトップ(VDI)を収容する計画だ。「SIベンダーに依頼しなくても、自分たちでノードを追加できそうだ」と富永氏。VDIに続けて、サーバー統合も視野に入れている。

ハードのライフサイクル管理も容易に

 オリックス生命保険は既に50台近くのHCI製品を利用している。2015年11月にSIEM(セキュリティ情報イベント管理)システムのインフラにHCIを適用したのを皮切りに、VDI、業務システムへとHCI基盤を段階的に広げてきた(図7)。

図7 オリックス生命保険のHCI利用状況
Nutanixでリソースプールを拡張中
図7 オリックス生命保険のHCI利用状況
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 「当初はストレージ容量重視でリソースプールを拡張した。新規システムのリソースはHCIのプールから引き当てるのが基本だ」(菅沼氏)。マイナンバー管理やコールセンターの支援システム、保険金支払いのワークフローといった業務システムをHCI基盤上で構築している。

 PCサーバーをベースとするHCIは5~6年でハードウエアの老朽化に至る。オリックス・システム システムコントロールグループ生命アプリ基盤・統括チーム長の池田純二氏は「リプレース用のハードウエアを調達したら、vMotionでシステムを移行し、古いノードを切り離す。ハードウエアのライフサイクル管理もHCIで楽になる」と見込む。