首位のNTTデータをグーグルと富士通が追いかける──。2017年4月入社の学生を対象としたIT業界就職人気ランキングはトップ3の顔ぶれこそ同じだが、これら以下では変動が激しい。大手メーカーやSI(システムインテグレーション)企業が復調する一方、ネット系企業は停滞傾向が見られる。2016年に続く就職活動ルールの改定で、今年は学生、企業ともに戦略的な行動が目立つ。「売り手市場」の状況が続くなか、ランクを上げたIT企業は優秀な人材を確保するためにどんな手を打ったのか。取り組みを紹介しつつ、ランキング結果を披露する。

 楽天のクチコミ就職情報サイト「みんなの就職活動日記(みん就)」と日経コンピュータ、日経BPイノベーションICT研究所は、2017年4月入社予定の学生を対象に「IT業界就職人気ランキング」調査を実施した。2010年から毎年調査しており、今回で7回目となる。

 ランキング100位以内に入ったIT企業を得票順に示した総合ランキングのトップはNTTデータ(図1。調査概要は図の末尾)。本調査を始めた2010年(2011年入社の学生が対象)以来、7年連続で首位を獲得した。得票数は1229で、2位のグーグルの1.5倍だ。3位の富士通まで、トップ3は昨年と同じ顔ぶれとなった。

図1 IT業界における就職人気の総合ランキング
大手メーカー・SI企業のランキングが上昇
図1 IT業界における就職人気の総合ランキング
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 4位以下では、大手ITメーカーやSI企業の復調が目立つ。4位のNECは前回6位、9位の日立製作所は同10位からランクを上げた。2社とも本調査では過去最高の順位となった。

 16位の日本IBMは前回22位からのランクアップだ。大手SI企業ではSCSKが9位から6位に上がり、伊藤忠テクノソリューションズは昨年の5位をキープしている。

 50位以内を見ると、独立系SI企業と金融ユーザー系SI企業の躍進が顕著だった。独立系では21位のオービック(昨年26位)、23位のTIS(同30位)、33位の都築電気(同50位)、37位のサイボウズ(同56位)が順位を上げた。

 金融ユーザー系では損保ジャパン日本興亜システムズが同42位から38位、三菱UFJインフォメーションテクノロジーが同56位から43位、ニッセイ情報テクノロジーが同85位から44位、第一生命情報システムが同48位から47位に上昇。ITを使い新たな金融サービスを作るFinTechに注目が集まっていることも一因とみられる。

 ここ数年で台頭してきたネット系企業は伸び悩んだ。グーグルのほか8位の楽天、13位のLINEは昨年同様の順位で足踏み。2014年、15年に連続で4位だったヤフーは7位に下がった。26位のぐるなび(同23位)や40位のドワンゴ(同33位)、45位のグリー(同38位)も順位を下げている。ディー・エヌ・エーは同32位から30位へ上昇した。

 みん就を運営する楽天みんなの就職事業部の今里慎作部長は、「安定志向の学生が増え、華やかなイメージが強いネット系企業に対して冷静に検討するようになっているようだ」と指摘する。

広報期間が2カ月短縮

 ランキング全体の傾向として、学生の大手重視が昨年以上に進んでいるといえる。昨年に続き、今年も採用スケジュールが変更になったことが影響したと考えられる(図2)。

図2 2017年卒学生の採用の流れ
選考開始が2カ月前倒しに
図2 2017年卒学生の採用の流れ
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 日本経済団体連合会(経団連)が定めた「採用選考に関する指針」では、会社説明会など広報活動の開始時期は大学3年の3月で昨年と同じだが、面接など採用活動の開始時期は2カ月前倒しして大学4年の6月としている。

 内定は昨年と同じく大学4年の10月なので、広報期間が2カ月短くなったことになる。学生が業界研究などに費やせる期間も短くなり、結果的に知名度の高い大企業が有利に働いたとみられる。

 こうした状況で、新卒を採用するIT企業は学生との接点をいかに戦略的に作り、維持していくかに知恵を絞っている。広報活動の開始前からインターンシップを複数回実施するのは、もはや当たり前。加えて、入社後の働き方を学生が明確にイメージしやすくするための取り組みを強化している。

 NTTデータが今回力を入れたのは、広報活動の解禁後に毎年実施しているセミナー「キャリア生トーク」だ。西沢昌哉人事部人事担当採用グループ課長は「今年は開催回数を昨年に比べ3割増やした」と話す。

 キャリア生トークでは、異なる職種のNTTデータ社員十数人が個々のブースに分かれて座る。職種は「顧客営業」「プロジェクトマネージャ」など、同社の人材育成プログラム「プロフェッショナルCDP(Career Development Program)」に基づいている。

 学生は自分が希望するブースを回って、各職種のキャリアや働き方を実際の社員から直接聞ける仕組みだ。

企業分野別は3分野で首位交代

 次に企業分野別の就職人気ランキングを見てみる(図3)。昨年は7分野で首位が交代したが、今回は「金融ユーザー系SI」「独立系SI」「コンサルティング/総合研究所」の3分野にとどまった。この3分野で上位の企業は総合ランキングも好調で、例えば独立系SIで昨年の3位から2位に上ったTISは、総合で同30位から23位と、順位を七つ上げている。

図3 企業分野別の就職人気ランキング
3分野で首位交代
図3 企業分野別の就職人気ランキング
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 TISが今回重視したのは、年間を通じたイベントの連続性だ。「昨年までインターンシップを単発で実施していた。2015年からキャリアキャンパスという名称に統一し、夏秋と冬の2回を続けて受講してもらうようにした」(有木秀悟企画本部人事部主査)。

 夏秋では8~11月の5日間で、就職活動への向き合い方や他業界を含めた業界研究など基本的な内容を説明。このプログラムへの参加者を中心に、広報解禁直前の2016年2月により高度なインターンシップを実施した。

 冬では「ITアーキテクト」「コンサルタント」といった職種別コースを用意。各職種に就いている社員が先生役を務めて、疑似的なITプロジェクトを体験させた。入社後にどのようなスキルを身に付け、どう働くのかをイメージしやすくするのが狙いだ。

 1コース2日間で、ITアーキテクトのコースだけ他の職種よりも多く3回実施した。「ITアーキテクトを増やす人材戦略の下、社内に専門の育成組織を設けている。この取り組みをインターンシップに拡大した」と中西康博人事部シニアエキスパートは説明する。

自社の個性を上手に伝える

 「その企業をなぜ選んだのか」という志望理由別のランキングを見てみよう(図4)。「会社の魅力」「仕事の魅力」「雇用の魅力」の3分野について、詳しい志望理由を尋ねた。

図4 志望理由別ランキング
「専門スキルが身に付きそう」の首位はTIS
図4 志望理由別ランキング
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 図4に示す五つの項目のほかに「特定のイメージはない」を加えた六つの選択肢を設定。志望する企業ごとに志望の理由を聞き、その結果から回答率が高い企業順にランキングを作成した。「技術力がありそう」では、日本オラクルへの就職を希望する学生の32.4%がこの選択肢を選んだことを示す。

 このランキングは、企業に対して学生が持つイメージを浮き彫りにしている。「成長性が高そう」でアビームコンサルティングは4年連続、「教育研修に熱心そう」で富士通エフサスが3年連続でそれぞれ首位を獲っている。こうした上位企業は自社の特徴を学生に強く印象づけているとみなせる。

 複数の項目でランキングを大きく上げた企業もある。「経営者・ビジョンに共感」「社風・居心地が良さそう」で1位になった都築電気だ。新卒採用を担当する人事部第一人事課の西田憲司氏は自社の採用活動について「特別なことはしていない」と話す。

 重視しているのは「当社で働くイメージがわくように、現場社員との対話機会を数多く設けている」(西田氏)ことだ。例えば会社説明会や採用面接の待ち時間などを利用して、繁忙期の現場の様子や仕事の悩みについて社員が学生に語りかけている。

 社員を会議室に呼び出し、その場でインタビューして様子を撮影し、学生向け説明会などでビデオ上映することもある。「アナログ的なやり方が、デジタルな採用活動に慣れている今の学生にかえって響いたのではないか」と西田氏は推測する。

NTTデータは全業種中12位

 調査では、代表的な職種について志望する割合が高い順にランク付けした志望職種別ランキングも実施している(図5)。「システムエンジニア/プログラマ」で1位の富士通システムズ・イーストであれば、同社への入社を志望する学生の69.4%がこの職種を選んだことを意味する。同社の1位は2年連続だ。

図5 志望職種別の就職人気ランキング
「セールスエンジニア」志望者が多いのはサイボウズ
図5 志望職種別の就職人気ランキング
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 「経営・業務コンサルタント」では、アビームコンサルティングが5年連続首位の座に就いた。調査対象が毎年変わっても連続して上位にいる企業は、個々の職種と企業に対する学生のイメージが強く結びついていると考えられる。

 一方、「セールスエンジニア」では昨年トップ10圏外だったサイボウズが首位を獲得。「プロジェクトマネジャー」では、グリーが2014年以来のトップとなった。

 全業種対象の就職人気ランキングを見ると、NTTデータの人気が年々高まっている(図6)。2013年の63位から、2014年は27位、2015年は20位、2016年の今回は12位と着実にランクアップしている。アクセンチュアは2015年の79位から35位、野村総合研究所は同47位から38位、SCSKは同117位から55位に順位を上げた。

図6 全業種の人気ランキング
NTTデータは昨年20位から12位に
図6 全業種の人気ランキング
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 文部科学省と厚生労働省の調査によると、2016年4月入社の大学生の就職率はリーマン・ショック前を超える97.3%に達した。景気回復を受けた人手不足から、2017年入社予定の学生の就職・採用活動も「売り手市場」が続く。

 IT企業の人事担当者は「形がないものを作るのがIT業界の仕事。魅力を学生に理解してもらうのは時間がかかる」と異口同音に話す。このため、売り手市場の時期は一般に新卒採用に不利になりがちだが、今回は健闘したといえる。

 海外勤務または海外企業に転職したいと考えている志望者の多い企業のランキングを作成したところ、アビームコンサルティングやアクセンチュアなど海外プロジェクトを手掛ける企業が上位につけた(図7)。海外に勤務する場合、短期を望むのか、長期でもかまわないかを尋ねたところ、35.5%が「期間を気にせず長期で行きたい」と回答した。

図7 海外勤務または海外企業に転職したいと考えている志望者の多い企業のランキング
8割以上が海外勤務を希望
図7 海外勤務または海外企業に転職したいと考えている志望者の多い企業のランキング
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 採用スケジュールが大幅に変わった2016年入社の学生向けの就職・採用活動は、企業、学生は共に手探りで進めざるを得なかった。これに比べると、今回の2017年入社予定の学生向け活動は再度のスケジュール変更がある程度予測できたこともあり、インターンシップの強化を始め先手を打って対応した企業が少なくない。

 学生も同様で、楽天の今里部長は「就職・採用活動のスケジュールが前倒しになったことを、今年の学生はどちらかというと前向きに捉えている」と話す。

 問題は、内々定を出してから10月の内定までの期間が延びたために、学生の囲い込みと奪い合いは昨年以上に激しくなる可能性があることだ。採用計画を既に達成した企業であっても、人事担当者にとっては気の抜けない時期が当分続く。

優秀な学生が持つ人脈を開拓

 IT業界を志望する学生の4人に3人は、就職活動を始める前にインターンシップを経験している。今回の調査からは、学生の就職活動でインターンシップの比重が一段と増していることが分かった。

 1社以上参加した学生は昨年の66.8%から75.4%に上昇。2社以上は同45.3%から54.9%に達した(図A)。回答者が異なるので直接の比較はしにくいが、IT業界を志望する学生は大学3年生からインターンシップに行くのが当たり前、という実態が浮かび上がる。

図A インターンシップの参加状況
75%が参加経験あり
図A インターンシップの参加状況
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 2017年入社予定の学生は、これまでの採用スケジュールの変更に右往左往してきた先輩の就職活動を見ている。2016年3月以降の本番に備え、早い段階から業界研究や自己分析などに取り掛かりたいとの意向がうかがえる。

 企業側は表向きは「インターンシップは採用活動とは直結していない」(大手SI企業の採用担当者)とする。だが実際のところ、多くの企業が知名度を向上させ業務内容の理解を深めてもらう手段として、インターンシップを強化している。「1日や半日といった短期間のインターンシップを設けて、参加者数を増やす企業が増えている」(楽天の今里部長)。

入社のお墨付きを与える

 以前からインターンシップに積極的な企業は、優秀な学生と触れ合う機会を継続することに余念がない。この点で興味深いのがワークスアプリケーションズの取り組みだ。同社は、企業分野別ランキングのソフトウエア部門で日本マイクロソフトなどの大手を抑え、2年連続で首位となった。

 ワークスアプリケーションズのインターンシップは20日間にわたる。期間中は学生一人ひとりがビジネスプランの立案から情報システムの試作開発、最終プレゼンテーションまでをやり抜く。

 同社は一連の過程を通じて、学生の潜在的な課題解決力などを見ていく。その結果、特に優秀な学生に対しては、同社への入社権利を有する認定証を発行する。認定証をもらえるのは1回のプログラムにつき参加者の1~3割程度。有効期間は3年だ。

 現在はこの取り組みを基に、優秀な学生が持つ人脈の開拓に力を入れている。「優秀な学生の周囲には優秀な人が集まる」という考えからだ。

 具体的には、認定証を獲得した学生に、他の学生に向けたセミナーの主催者になってもらう。会場の確保や集客にかかる費用の負担は同社が担当するが、あくまで学生自身が企画や運営を担うのがポイントだ。

 「セミナーで当社を宣伝する必要はない。働くとはどういうことか、IT企業の仕事とはどんなものか知ってもらうのが先決だ」とワークスアプリケーションズの矢下茂雄リクルーティングDiv.ヴァイスプレジデントは話す。実際に同社に入社できるお墨付きを得た学生が動くことで、学生間の口コミ効果にも期待している。