「ハイパーコンバージド(HC)システム」と呼ばれる超集約サーバーが注目を集めている。CPUやストレージと仮想化ソフトを、2U前後のコンパクトな汎用ラックマウント型IAサーバー(PCサーバー)の中に詰め込んだ製品を指す。50台程度のサーバー機能を集約できる能力を持ち、初期設定や運用、拡張が容易と各社は訴求する。先駆けて採用したユーザーへの取材を通じ、実力を探る。

 「10台単位の物理サーバーを集約できるという説明を聞いて半信半疑だったが、本当にサーバー集約が実現して満足している」。

 モバイルコンテンツサービスのサイバードでシステム基盤を担当した飯田哲男氏(当時の役職はビジネス戦略統括本部テクノロジー戦略統括部統括部長、2016年4月1日付で異動)はこう語る。

 サイバードは2015年8月に、「コンテンツ事業」の新しいインフラとして、ニュータニックス・ジャパンのハイパーコンバージド(HC)製品「Nutanix NX」を導入した。

 現在、2UサイズのNutanix NXアプライアンス機を2台(物理ノードは4+2=6ノード)運用する。この上で60個ほどの仮想マシン(VM)を起動して稼働させている。

約50台の物理サーバーを集約

 従来は約50台、ラック10基ほどを占有していた物理サーバーはラック1基に収まるようになった。物理サーバーが減った分、それに付随するハード保守費などを75%程度削減できた(図1)。

図1 サイバードのサーバー移行前後の変化
サイバードはハイパーコンバージドでサーバー集約(写真:Getty Images、画像提供:サイバード「名探偵コナン×脱出ゲーム『深閑の迷宮』」、ニュータニックス・ジャパン)
図1 サイバードのサーバー移行前後の変化
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 「動作は安定していて、普段はほとんど何もしなくてもいい」(飯田氏)。運用人員は従来の10人前後から3人前後に抑えられるようになった。

 飯田氏は移行の経緯について、「事業の成長に合わせて増え続けるサーバー群の運用に苦慮していた」と説明する。同社は1998年設立。携帯電話会社各社が「公式コンテンツ」を拡充するにつれて、「名探偵コナン」などの人気アニメやキャラクターに関連するコンテンツを相次いで投入した。その結果、物理サーバーの数は増え続けた。

 同社は2014年春ごろから物理サーバーの仮想化とHCへの移行を計画。テスト機で検証したところ、サイバードで使っていた「Oracle」「MySQL」「PostgreSQL」などのデータベースはいずれも問題なく動作した。

 ストレージの単純な読み書きでは従来の物理サーバー比で6倍程度の性能が出た。ストレージは6ノードそれぞれに搭載されている。HCの特徴である仮想ストレージ管理ソフトによって、ノード間でデータ保全の仕組みが働き、1ノードが壊れてもデータ損失が起こらないという信頼性の高さも魅力的だった(図2)。

図2 ハイパーコンバージドシステムの一般的な特徴
初期設定の容易さ、仮想ストレージ、拡張性が売り物
図2 ハイパーコンバージドシステムの一般的な特徴
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 サイバードはHC以外の選択肢も検討した。サーバー仮想化技術を採用するだけで、通常の物理サーバーを利用する案もあったが10台以上は必要になり、運用負荷削減効果が限られることが分かった。

 パブリッククラウド環境への全面移行も考えた。だが、サイバードのサービスでは、利用者の携帯電話会社や端末の違いで、確実に課金できるように細かくアクセス制御する必要がある。「クラウド移行時にアクセス制御の問題点を洗い出す必要があり、膨大な工数がかかる」(飯田氏)。

新設も増設もわずか15分で

 みずほフィナンシャルグループ傘下のみずほ情報総研は、米ヴイエムウェアが策定した規格に基づいたHCアプライアンス機の導入を検討している。同規格に基づくハードはEMCジャパンなどのメーカーが「Virtual SAN Ready Node(EVO:RAIL)」「VxRail」のブランドで提供している。販売するネットワンシステムズの協力を得て、試用機による検証を実施した。

 システム運営第2部インフラ管理チームの二宮健二氏は「サーバーと共有ストレージを組み合わせる従来のシステム基盤とは違う手法を模索していた」と話す(写真)。

写真 みずほ情報総研システム運営第2部インフラ管理チームの二宮健二氏(右)は「VxRail」を試用し本格導入を検討
写真 みずほ情報総研システム運営第2部インフラ管理チームの二宮健二氏(右)は「VxRail」を試用し本格導入を検討
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 みずほ情報総研が重視したポイントは、導入や増設の容易さだ。HCは最初からCPUとストレージが接続済みで仮想化ソフトも設定された状態で納品される。個別に導入・設定する必要がある従来型のハード製品では、ケーブルの接続や初期設定が煩雑で、増設のたびに繰り返す必要がある。

 「従来型のハードは初期設定に半日~1日かかる。ところが、HCではIPアドレスなどの項目を指定するだけで、15分ほどで起動した」(二宮氏)。1台目を稼働させたままの状態で2台目を接続したところ、やはり15分ほどで起動し、さらに数分後には増設を自動的に認識して2台の連携動作が始まった。

ストレージ仮想化がポイント

 HCの名にある「コンバージド」とは、統合や集約といった意味の単語。文字通り、ITインフラの構成要素を高密度に統合・集約した製品を指す。

 もっとも、「コンバージドシステム」と呼ばれる製品は以前からある。コンバージドシステムがラック1基程度の大型機にサーバーやストレージを集約した製品であるのに対して、HCの最小構成単位は2U程度の薄型きょう体。「ハイパー」という呼び名が表す通り、さらに統合・集約の度合いを増した。

 HCシステムの中身はIAサーバーやHDD/SSDなどの汎用品だ。高い拡張性や運用管理性を実現する上で不可欠なのが、仮想ストレージ管理ソフトである。SDS(ソフトウエア・ディファインド・ストレージ)の機能を実現する。

 各ノードで動作する仮想マシンがデータを書き込むとき、仮想ストレージ管理ソフトの制御で、自ノードにデータを書き込むのと同時に別のノードにもネットワーク経由で同じデータを書き込む。これにより、一部のデータが欠損しても他のノードに保存してあるデータで補ったり、重複排除や圧縮で効率を高めたりできる。ノードを追加すれば、システム全体の処理能力やストレージ容量を簡単に増やせる。

 高密度・高集積のハード本体と、仮想ストレージ管理ソフトによる高い柔軟性。これらの利点を併せ持つことで、HCは既存のハード製品に比べてより小さな単位でITインフラを導入したり、負荷の増大に応じてきめ細かく処理能力を増やしたりできる。

ハード分野で数少ない成長市場

 HCの典型的な用途がVDI(仮想デスクトップ環境)だ。ニュータニックスの場合、出荷台数全体の3割程度を占めるという。「VDIは事前にサーバーやストレージのサイズを見積もりにくく、段階的に拡張できるHCの特徴を生かしやすい」(同社の露峰光SE Manager)。

 米IDCの調査によれば、HCシステムの世界市場は2015年10~12月期に3億5590万ドル(約386億円)で、前年同期比で2.7倍になった。今後も成長が続くとみられる。コモディティー化による価格下落が進みがちなハード分野では数少ない成長市場だけに、注力するメーカーが増えている()。

表 主なハイパーコンバージド製品
急成長市場で激しい競争
表 主なハイパーコンバージド製品
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 従来型の共有ストレージ装置の市場は反対に縮小するとみられる。EMCジャパンは、既存製品を大企業向け、HCシステムは中小企業や、システム管理者を設けるのが難しい支社・小売店舗など向けとして、それぞれ売り分ける考えだ。

 日本ヒューレット・パッカード(HPE)はHCシステムを、既存のIAサーバー「ProLiant」と仮想ストレージ管理ソフト「StoreVirtualVSA」で構成。「実績ある製品を組み合わせており、“枯れた技術”を使える安心感を訴求したい」(竹中俊雄エンタープライズグループ営業統括ハイブリッドIT統括本部担当マネージャー)とする。

 シスコシステムズは2016年4月に「HyperFlexSystems」を発売し、HC市場に新規参入した。既存の同社製IAサーバー「UCS」に、新開発の仮想ストレージ管理ソフト「HX Data Platform」を載せる。上限があるものの、ストレージだけ、CPUだけの拡張が可能なのも特徴だ。ネットワークスイッチも統合の範囲に含めて、「ネットワークも含めた最適化ができる」(石田浩之データセンター/バーチャライゼーション事業部長)と訴求する。

機器コストは割高

 HCを導入するうえで注意すべき点もある。サイバードの飯田氏は、「一般のIAサーバーを買うのに比べれば割高。技術的には増設は容易だが、コスト面では気軽に増設できない」とみる。

 サイバードではコンピュータのリソースのうち、特にストレージ容量が不足しそうなことを懸念しているという。しかし1台に統合されているというNutanix NXの仕組み上、ストレージだけの増設はできず、原則としてCPUやメモリーなども一体になったノード単位で増設しなければならない。他社製品ではストレージだけを増設できるHC製品もあるが、増設の単位や上限などに一定の制約がある。

 みずほ情報総研の二宮氏も同様の見方を示す。「統合されている分、柔軟な構成にはできない。CPUパワーを増やそうとすると、ストレージが余るようなことになりがちで、結果的に割高になる」(二宮氏)。初期設定や運用・増設の容易さによる工数・人件費削減効果も考慮して初めて、HCシステムの利点があるとみている。

 SDSの性能はアルゴリズムの改良によって向上しつつあるが、まだ共有ストレージ装置には及ばないという見方が一般的だ。「VDIなどの用途なら問題ないが、重い書き込み処理が頻繁に発生するようなシステムの基盤としてはまだ不安がある。使い所をよく見極めたい」(二宮氏)。

 ガートナー ジャパンリサーチ部門ITインフラストラクチャ&セキュリティの青山浩子主席アナリストは、「ユーザー企業は、HCの市場が未成熟である点に留意すべき」と話す。

 そのうえで「オンプレミスとパブリッククラウドの中間に位置するHCは、新規事業に伴うシステムを手早く立ち上げる用途などに便利。ユーザー企業は今すぐ使わないとしても、研究しておくべき製品分野だ」(青山氏)と助言する。各社の機能向上や価格競争、米EMCを買収した米デルの動向など注目すべき点は多い。

 きめ細かい拡張性や柔軟な運用性など、HCに利点が多いのは確か。導入を検討する際には、HCの利点と将来性を冷静に見極めるべきだろう。

ヴイエムウェア・EMCジャパンのVxRail
ヴイエムウェア・EMCジャパンのVxRail
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シスコシステムズのCisco HyperFlex Systems
シスコシステムズのCisco HyperFlex Systems
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日本ヒューレット・パッカードのHPE Hyper Converged System
日本ヒューレット・パッカードのHPE Hyper Converged System
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ニュータニックス・ジャパンのNutanix NX
ニュータニックス・ジャパンのNutanix NX
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