写真:Getty Images
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2016年入社予定の学生を対象とした「IT業界就職ランキング」の首位はNTTデータ。今回で6連覇を果たした。2位にはグーグルが躍進、“一強”に迫りつつある。今年から新卒採用のスケジュールが大幅に変わり、企業と学生は共に手探りしながら、採用・就職活動を進めている。その中で、IT企業に対する学生の評価はどのように変化したのか。新卒採用に向けた主要企業の取り組みと併せてランキング結果を見ていく。

 IT業界での就職を希望する学生は、どの企業にどんな魅力を感じているのか。楽天のクチコミ就職情報サイト「みんなの就職活動日記(みん就)」と日経コンピュータ、日経BPイノベーションICT研究所は、2016年4月入社予定の学生を対象に「IT業界就職人気ランキング」調査を実施した。2010年から毎年調査しており、今回が6回目となる。

 ランキング100位以内に入ったIT企業を得票順に示した総合ランキングの1位はNTTデータ(図1調査概要)。調査開始以来、6年連続で首位を保った。

図1 2016年4月入社 IT業界就職人気ランキング
大手ITメーカー3社がトップ10入り
図1 2016年4月入社 IT業界就職人気ランキング
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調査概要

楽天「みんなの就職活動日記」が調査を企画・実施。日経コンピュータと日経BPイノベーションICT研究所が協力している。2016年3月卒業予定の学生を対象に、就職活動の口コミサイト「みんなの就職活動日記」上のWeb調査と、同サイトが主催する就職イベント会場でのアンケート調査を実施した。調査期間は2014年10月14日から2015年5月17日。4045人から回答を得た。回答者は就職希望の企業を5社まで複数回答。回答件数を単純集計してランキングを作成した

 得票差は開いているものの、トップに迫りつつあるのがグーグルだ。2013年はトップ10外の12位だったが、2014年は8位、今回は2位とトップ3入りを果たした。3位は、前回7位からランクアップした富士通だった。

 今回の傾向として、学生の大手志向が強まっていることが挙げられる。大手メーカーでは富士通のほか、NEC、日立製作所が順位を上げた。日立は2010年以来、5年ぶりのトップ10入りだ。富士ゼロックスは前回の25位から15位へと順位を上げた。

 大手ユーザー系SI(システムインテグレーション)企業の健闘ぶりも目立つ。新日鉄住金ソリューションズが前回の16位から14位へとアップ。50位以内では、東京海上日動システムズが同54位から37位、損保ジャパン日本興亜システムズが同92位から42位、電通国際情報サービスが同58位から43位へとランクアップした。商社系では伊藤忠テクノソリューションズが同6位から5位となった。

 一方で、ネット系企業の人気も根強い。グーグルに加えて、ヤフーが4位と上位を保った。前回20位に初登場したLINEは今回12位。23位のぐるなび(前回は30位)、33位のドワンゴ(同41位)、38位のグリー(同46位)なども順位を上げた。

スケジュール変更元年で手探り状態

 今回の就職人気ランキングで大手志向の傾向が強まっている一因として、採用スケジュールが変更になったことが考えられる。

 2016年卒の学生に関しては、会社説明会などの「広報活動」は大学3年(修士過程の場合は修士1年)の3月、試験・面接などの「選考活動」は大学4年(修士2年)の8月スタートとなった。昨年までと比べ、それぞれ4カ月後ろ倒しとなった格好だ(図2)。内定は変わらず、大学4年の10月以降となる。

図2 2016年卒学生の採用の流れ
就活解禁が4カ月遅くなる
図2 2016年卒学生の採用の流れ
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 この採用スケジュールは日本経済団体連合会(経団連)が定めており、外資系企業やベンチャー・中小企業などを除く会員企業(2015年6月時点で1329社)や主要な日本企業はこの日程に従っている。

 スケジュール変更元年となる今回は、企業と学生はそれぞれ手探りしつつ、採用・就職活動を進めているというのが実態だ。みん就を運営する楽天 みんなの就職事業部の今里慎作部長は「学生も企業も大きく二極化している」と指摘する。

 学生では「情報感度が高い人は2014年夏ごろから就職活動を始めていた」(今里氏)。その一方で、2015年に入ってから動き始めた学生も少なくないという。企業側も採用に関わる行動を早めに起こした会社と、そうでない会社に分かれるようだ。

 今回ランクアップを果たした企業の多くは、「学生と接触する機会を増やした」という点で共通している。富士通は2014年夏以降、職場受け入れ型のインターンシップや大学が主催する業界研究会への参加を積極化。インターンシップへの参加者は前回の20人から130人に増えた。大学への協力についても「今回はできるだけ要望に応えた」と、山本幸史人事労政部人材採用センター長は話す。

 富士ゼロックスも集合型のインターンシップを強化した。従来は夏だけだったが、今回は冬休みに当たる2015年2~3月にも開催。「できるだけ多くの学生に、IT企業やITの仕事への理解を深めてもらうことを狙った」(瓜生欽也採用育成センターセンター長)。イン主催する業界研究会への参加を積極化。インターンシップ参加者は前回の150人から300人強へと倍増した。

企業分野別ランキングは大きく変動

 採用スケジュール変更の影響は、企業分野別ランキングにも表れている(図3)。例年は大きな変化がなく、トップ交代があったのは2013年は3分野、2014年は2分野のみ。ところが今回は、首位が交代したのは7分野に及んだ。

図3 企業分野別の就職人気ランキング
7分野で首位交代
図3 企業分野別の就職人気ランキング
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 新たに1位となった7社のうち、初めてトップの座に就いたのは「ソフトウエア」のワークスアプリケーションズと、「ネットビジネス」のグーグルの2社。それ以外は返り咲き組だ。「ITメーカー系SI」のNECソリューションイノベータは、旧NECソフトとして2010年に1位となって以来、5年ぶりである。

 「その他ユーザー系SI」で2011年以来の首位となったのは、電通国際情報サービス(ISID)。同社も「IT業界やSIの仕事を知ってもらう1日の集合型インターンシップの回数を大幅に増やした」(管理本部人事部の松永泰次郎氏)という。

 インターンシップは「サマービジネスプログラム」と呼び、座学やボードゲーム、ISID社員との交流会などで構成する。2013年夏は2回開催したが、2014年夏には約10回開催した。地域も従来の東京・大阪に、名古屋・札幌・福岡を加えた。

自社の特徴を学生に伝えているか

 次に、学生が「その企業をなぜ選んだのか」という志望理由別のランキングを見てみる(図4)。調査では、「会社の魅力」「仕事の魅力」「雇用の魅力」という三つの分野ごとに選択肢を用意した。会社の魅力であれば、「技術力がありそう」「安定していそう」などだ。

図4 志望理由別の就職人気ランキング
「若いうちから活躍できそう」の首位はディー・エヌ・エー
図4 志望理由別の就職人気ランキング
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 志望する企業ごとにこれらの志望理由を尋ねた結果から、回答率の高い企業順にランキングを作成した。「安定していそう」であれば、ジェイアール東日本情報システムへの就職を希望する学生の33.1%がこの選択肢を選んだことを示す。

 志望理由別ランキングからは、学生が個々の企業に抱くイメージが見えてくる。各企業が学生に対して、自社の特徴をどれだけ伝えることができたかを示す指標ともみなせる。

 このランキングは毎年変動が大きいが、前回と続けて1位を取った企業が3社ある。「技術力がありそう」の東芝ソリューション、「成長性が高そう」のアビームコンサルティング、「教育研修に熱心そう」の富士通エフサスである。この3社は、自社の特徴を特にアピールできていると言えそうだ。

 志望職種別ランキングが図5だ。調査では、どの企業への就職を志望しているかとは別に、「IT業界で担当してみたい仕事(職種)」を尋ね、その結果から回答率が高い順にランキングを作成した。「システムエンジニア/プログラマ」で1位になった富士通システムズ・イーストなら、同社を志望する学生の73.3%がこの職種を選んだことを意味する。

図5 志望職種別の就職人気ランキング
SE志望者が多いのは富士通システムズ・イースト
図5 志望職種別の就職人気ランキング
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 「経営・業務コンサルタント」では、1位のアビームコンサルティングから4位の大和総研ホールディングスまで前回と順位が同じ。学生の志望理由と企業がマッチしていると言える。これに対し、「プロジェクトマネジャー」は回答率が全体に低く、1位のディー・エヌ・エーでも14.0%にすぎない。学生にとって、プロジェクトマネジャーはSEなどに比べてイメージがわきにくい職種であるようだ。

 志望職種別ランキングは、各職種における人気度合いを示すだけでなく、企業が求める人材像と「その会社でこんな仕事をやってみたい」と学生が抱くイメージが一致しているかどうかを判断する指標として使える。キヤノンマーケティングジャパンが「セールスエンジニア」を担える人材を最も希望しているのであれば、採用活動は成果を上げているとみなせる。

「ビッグデータ」は6割が理解

図6 全業種の就職人気ランキング
NTTデータは20位
図6 全業種の就職人気ランキング
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 全業種における就職人気ランキングを見ると、IT業界で断トツの強さを示すNTTデータは、全業種で20位(図6)。前回の27位から順位を上げた。

 このほか、47位に野村総合研究所(NRI)、95位に富士通が入った。IT業界のランキングでは11位のNRIが3位の富士通よりもランクが高いのは、非IT業界への就職志望者の割合がNRIは大きいからだと考えられる。

 今回、学生に対してIT用語の理解度合いを尋ねてみた(図7)。「クラウドコンピューティング」「ビッグデータ」については過半数が「知っていて説明できる」と回答。これに対し、「IoT」はほぼ半数、「シャドーIT」は約8割が「知らない」と答えた。知識の幅は限られているとはいえ、IT業界の主要なキーワードを勉強している学生が多いことが分かる。

図7 IT用語の理解度合い
ビッグデータを「説明できる」が6割
図7 IT用語の理解度合い
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 6月以降、企業・学生の採用・就職活動が本格化していく。「2016年以降も就職活動が続くことも十分あり得る」と、みん就の今里部長は話す。「選考期間が短くなり、内定からあぶれてしまう学生が出てくる。採用予定数を確保できず、2016年も採用活動を継続する企業もあると予想している」(同)。

 企業の採用担当者にとっても、選考期間が2カ月しかないのは頭の痛い問題だ。「夏休み返上を覚悟している」と、企業の採用担当者は異口同音に話す。企業も学生も暑い夏を乗り切れるのか、これからが勝負どころだ。

学生と社員で「アイデアソン」

 新卒採用スケジュールの変更に対する強化策として、IT企業各社が重視しているのがインターンシップである。2016年卒の学生向けに、各社は相次ぎ活動を強化した。

図A インターンシップへの参加状況
半数近くが「2社以上参加」
図A インターンシップへの参加状況
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 学生もこの動きを歓迎している。インターンシップへの参加状況を尋ねたところ、「2社以上参加した」が45.3%と半数近くに達した(図A)。学生もスケジュール変更に危機感を抱いている表れと言える。

 インターンシップとして職場で一定期間受け入れる形のほかに、短期間の集合型を採るケースが多い。本社や支社に学生を集め、1~3日程度で座学や実習形式でIT業界やITの仕事を教えるというのが一般的だ。その場に社員も参加し、会社を身近に感じてもらい、その後の広報・採用活動につなげていくことを狙う。

 各社ともインターンシップの進め方に工夫を凝らしている。SCSKは従来の1日コースに加えて、今回3日コースを新設した。1日を座学に、2日を要件定義から設計、開発を学ぶ実習に充てた。その際に「Javaのような言語を使わずにプログラミングを体験できるアプリを使い、文系の学生でも学びやすくした」と、人事グループ人事企画部の大島航介採用課長は話す。

 「若者にアピールするのは、やはり動画」と話すのは、ISIDの松永氏だ。インターンシップを実施した当日の最後に、その日の活動の様子をまとめた動画を流す。「自分の名前が出てくると、新鮮に感じるようだ」(同)。

ドローンがバス停を運ぶ?

 中でもユニークな試みと言えそうなのが、富士通の「あしたラボUNIVERSITY」だ(写真A)。学生と社員が共同で「街をいかに良くしていくか」を考えていくというものだ。

写真A 富士通が実施した「あしたラボUNIVERSITY」の様子
社会人と学生が組んでアイデアを議論
写真A 富士通が実施した「あしたラボUNIVERSITY」の様子

 核となるイベントが東京と大阪で2015年2月に開催したアイデアソン。学生と社員が5~6人のチームを作り、街を良くするアイデアを競い合う。「社員が指導役になるわけではなく、フラットな関係でチームを作るようにした」と、主要メンバーの一人である人事労政部人材採用センターの梅津未央氏は話す。

 アイデアソンでは様々なアイデアが生まれた。関東大会で最優秀賞を獲得した「ばすのす」は、仙台の交通が不便であるという問題の解決を狙ったもの。投票でバス停の位置を決め、そこにドローン(無人飛行機)がバス停を運ぶ。

 災害時に、センサー入りのお守りがマンホールと通信し、ユーザーを最適な避難場所へと誘導してくれる──関西大会で最優秀賞を受けた「LIVEPASS」はこんな機能を持つ。

 優勝した「Monche(Monster知恵袋)」は旅行者に地元の人が有用な情報を教える「地域モンスター」や、旅行者が観光地で改善してほしい点などを伝える「悪いモンスター」が登場する、ゲーム感覚の観光アプリだ。

 イベントはインターンシップの役割を果たしただけでなく、「新たなビジネスシーズを生み出す機会にもなった」と富士通の山本氏は話す。