写真:的野 弘路
写真:的野 弘路

世界で6億人近くのユーザーを抱えるLINE。日本発でグローバルに利用者を広げた希有なIT企業だ。国内にもはや敵はおらず、視線の先は海外。待ち受ける相手は米フェイスブックや中国テンセントなどの世界企業だ。国内地盤を固めつつ、グローバル展開も推し進める中で、顕在化するのは開発リソース不足。次なる野望に向け、LINEは体制強化を急ぐ。

LINEが2015年4月に開催した「LINE DEVELOPER DAY_2015 Tokyo」では、同社が使用しているオープンソース技術などが公開された(写真:的野 弘路)
LINEが2015年4月に開催した「LINE DEVELOPER DAY_2015 Tokyo」では、同社が使用しているオープンソース技術などが公開された(写真:的野 弘路)
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 「我々は世界で戦うフィールドに立っている。世界戦のチケットを手に入れたのだ」

 今年4月、前社長CEO(最高経営責任者)である森川亮氏からCOO(最高執行責任者)の出澤剛氏へバトンが渡り、新体制に移行したLINE。出澤氏がトップとして最初に公に語る場として選んだのは、今年、初めて大規模に開催したエンジニアを対象にしたイベント「LINE DEVELOPER DAY_2015 Tokyo」の壇上だった。

 全世界で5億6000万人が登録するメッセンジャーサービス「LINE」。メッセージ送受信、スタンプと呼ばれる大型のイラスト、音声通話やビデオ通話など、スマートフォン向けコミュニケーションアプリとして国内でも5800万人が登録している。米国企業が主導してきたインターネット業界で、日本発のサービスがここまで世界中に拡散していった例はほかにない。

 「アジア発でもグローバルなサービスが作れるということをエンジニアの皆さんに知ってほしい」。表舞台にめったに出ないLINE上級執行役員CTOの朴イビン氏は檀上からこう語りかけた。

 これこそがLINEの次なる野望の一つ。国内で競合を一掃したLINEが見ているのは米フェイスブックの「WhatsApp(ワッツアップ)」であり、中国テンセントの「WeChat」だ。だが、今年3月末時点でのフェイスブックの時価総額は約2300億ドル(約27.5兆円)、テンセントの時価総額は約1757億ドル(約21兆円)。LINEも幾度となく上場が噂されているものの、評価額は1兆円超と言われており、体力差は大きい。

 この現実を前に、LINEの経営陣からは焦燥感を帯びた言葉しか漏れてこない。「今年1年間はあらゆる意味で正念場だ」と出澤氏は言葉に力が入る。LINEは“タイミング”の重要性を誰よりも知っている。

 LINEが始まったのは2011年6月。当時のスマホ普及率は1割に届かなかった。この時代にスマホ向けに割り切って開発したLINEを投入したことが功を奏し、スマホが普及するとともに利用者数を伸ばして、今の不動の地位を得た。

 だからこそ、新興国を中心にスマホが普及期に入る今年1年間で、どこまでグローバル展開を進められるかでその後の勝敗が決まるとLINEは見ている。

 ここに懸念がある。開発リソース不足だ。LINEの開発陣は2014年10月時点で全社員の約7割。内訳はエンジニアが35%、企画担当が34%だ。それから半年間で「エンジニア中心の採用を推し進めたことで比率が上がっている」とLINE社長の出澤氏は言うが、それでも「エンジニアが圧倒的に足りていない」(LINEの朴氏)。

 例えば、LINEのエンジニアはオフィス内でプログラムを書いているだけではない。エンジニアを世界各国に月1回のペースで送り込む。近いところでは東南アジア諸国、遠いところでは南米諸国にまで足を運ぶ。その数は33の国と地域に及ぶ(図1)。派遣されたエンジニアは現地で販売されているスマートフォン端末とSIMカードを購入し、LINEの挙動を100項目にわたって確認していく。

図1 世界中の実地調査を進めるLINE
33の国と地域にエンジニアを派遣
図1 世界中の実地調査を進めるLINE
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 本来グローバル展開を進めるのであれば現地でマーケティング担当者を雇えば済む話。だが、それでは真のローカライズができないという矜恃がLINEにはある。

 「日本と海外では端末性能も通信環境も違う。各国で同じ使い勝手を実現する上でもエンジニアが直接現地に足を運び、手を動かして工夫することが大事」(LINE上級執行役員サービス開発担当の池邉智洋氏)という。

 海外のローカライズ戦略でもエンジニアは欠かせない存在なのだ。アプリ開発エンジニアからネットワークエンジニア、サーバーエンジニアなど、優秀なエンジニアは1人でも多く欲しい。エンジニア向けのイベントを開催したのも、LINEの開発体制を広く公開することで、参加したエンジニアの興味を刺激したいという思惑が背景にある。

生活密着構想も着々

 海外に打って出る一方で、日本に進出してくる海外勢を迎え撃つために、より国内地盤も強固にしておく必要がある。それが2014年10月にLINEが発表した「ライフプラットフォーム構想」だ。決済サービス「LINEPay」をはじめ、タクシー配車サービス「LINETAXI」など生活に密着した様々なサービスを次々と開始した(図2)。

図2 LINEが開始した主要なサービス
生活基盤へと触手を伸ばすLINE
図2 LINEが開始した主要なサービス
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 限られたリソースでグローバル展開と地盤固めの双方をまかなうのは無理がある。そこでLINEが力を入れているのが外部企業を巻き込んだエコシステムの形成だ。

 外部企業とパートナーシップを組み、API(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)を公開してLINEを使ったサービス開発を促す「LINEビジネスコネクト」はその中核に位置する。「今後はさらにAPIのオープン化を加速させていく」(CTOの朴氏)としており、よりいっそう、外部のエンジニアに協力をあおぐ。

 国内企業にとって、圧倒的なユーザー数を誇るLINEの存在は魅力的だ。自らの求心力を生かして、外部の開発リソースをうまく巻き込む。それがLINEのもう一つの野望だ。事実、国内の大手企業はこぞってLINEの活用に動き出している。

原 隆

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