「Amazon Web Services(AWS)への移行対象に“聖域”はない。現時点では計画していないものの、勘定系システムをクラウド化する可能性は十分にある」。三菱東京UFJ銀行の執行役員である亀田浩樹システム本部長兼システム企画部長(写真)は本誌の取材にこう話す。

写真 三菱東京UFJ銀行の亀田浩樹執行役員システム本部長兼システム企画部長
急ピッチでクラウド化を進める
写真 三菱東京UFJ銀行の亀田浩樹執行役員システム本部長兼システム企画部長

 勘定系は銀行で最も重要なシステムだ。たとえ可能性だけだとしても、勘定系システムをクラウド化の範囲に含めたことは、全面採用を宣言したに等しい。

 三菱東京UFJ銀行の勘定系システムは、2008年12月に旧東京三菱銀行と旧UFJ銀行のシステムを統合して構築したもの。統合プロジェクトには総費用3300億円、開発工数14万人月が投じられた。国内の大規模システムの象徴的存在である。

 三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)がAWSの採用方針を外部に公表したのは2017年1月のことだ。メガバンク初のAWS採用宣言は、国内IT業界やSIベンダーの注目の的になっている。

5年間で100億円のコスト削減

 取材で明らかになったMUFGのクラウド化方針はこうだ。MUFGは現在、国内で大小合わせて1000システムを所有している。このうち、10年間で500システムをクラウド化する()。

図 三菱UFJフィナンシャル・グループのAWS活用ロードマップ
100億円のコスト削減を目指し、半数のシステムをクラウド化
図 三菱UFJフィナンシャル・グループのAWS活用ロードマップ
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 新規開発のシステムについては、「クラウドの活用を第一に考える」(亀田執行役員)。新規案件のうち、50%はクラウド化するという。既存システムに関しては、サーバーの保守期限切れなどの更新タイミングでクラウド化を検討する。

 更新時にシステムをクラウドに移行するかしないかについては、個別に判断する。クラウド化するほうが明らかにコストが割高になるものや、高い可用性が求められるものに関しては、現状ではクラウド化の対象外としている。

 クラウドの本格採用に踏み切った最大の理由はコスト削減にある。MUFGは5年間で100億円のコスト削減効果があると試算。この中には、ハード費用のほか、共通基盤システムの活用にによる開発時の設計コストの低減分などを含む。

 コスト削減のうち、亀田氏が特に期待しているのが、ハードやソフトの保守期限切れに伴うシステム更新費用の低減である。「三菱東京UFJ銀行のITコストは年間1000億円。そのうち20%は保守期限切れ対策にかかる費用だ。クラウド化することで、このコストを削減したい」と話す。

 クラウド化するシステムは原則としてAWS上に開発する。MUFGは2016年春に、グループで使用する共通基盤システムをAWSに構築した。この基盤上に順次、個別のシステムを稼働させる。

 現在、三菱東京UFJ銀行のシステム部門が管理する範囲では、IT資産管理システムなど合計3システムをAWSに移行して動かしている。10件弱のシステムが開発中で、検討中のシステムは20を超えるという。「クラウドファーストの方針を決めてから、急ピッチで作業を進めている」と亀田執行役員は話す。

グループ数百人にAWS研修

 AWS採用の検討を本格的に開始したのは2015年夏。PoC(Proof of Concept)によって、開発生産性、セキュリティ、コストなどについて妥当性を確認した。

 他社のサービスと比較検討した結果、IaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)とPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)についてはAWSを使うと決めた。

 「機能の豊富さとコストの低さからAWSを第一選択肢にした。国内の採用実績が多く、ユーザーコミュニティが活発に機能していることも採用理由の一つ。先行して本格導入した企業からノウハウを学べると考えた」(亀田執行役員)。

 AWS上のシステム開発はグループのIT会社、三菱UFJインフォメーションテクノロジーが主に担当する。部分的にTISにも発注している。TISはAWSプレミアコンサルティングパートナーの認定企業である。

 三菱東京UFJ銀行はこれまで日本IBMを重要なITパートナーの1社としてきた。

 IBM製のIaaSを採用しなかったことについて亀田執行役員は「当行の勘定系システムはIBM製メインフレームで動いているが、それ以外のシステムは他のITベンダーにも構築を依頼している。IBM以外の製品・サービスを使うこと自体は珍しくなく、今回のAWS採用で、日本IBMとの関係が急に変化するということはない」と説明した。

 クラウドサービスの中で、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)についてはITベンダーを限定しない方針だ。「アプリケーションの特性に応じて選択する」(亀田執行役員)。

 現在も米セールスフォース・ドットコムの営業支援サービス「Sales Cloud」やIBMのAI(人工知能)サービス「Watson」などを活用している。

 今後、三菱UFJインフォメーションテクノロジーを中心に、グループでAWSを使いこなせる技術者を育成する。既にグループの数百人に対して研修を実施。2017年度中にAWSの資格取得者を30人育成する予定だ。