中古車販売大手のガリバーインターナショナルは、国内外のシステム開発・保守案件の過半をベトナムで手掛ける。目指すのはコスト削減だけではない。どこの国でも開発・保守ができるグローバル開発力を、発注者として身に付けるための第一歩と位置づける。
一方のベトナムIT企業も“安さだけ”の限界を認識し、コスト競争力以外の強みを磨き始めた。今のベトナムに注目すれば、これからのオフショア開発が見えてくる。

 バイクが激しく行き交うベトナムの首都ハノイ。2014年10月31日の午前9時、同市街にある商業ビルの一室に、中古車販売大手ガリバーインターナショナル(以下ガリバー)ITチームの坂口直樹氏と加藤大清氏、オフショア開発委託先のSEなど計7人が集まってきた。

 ほどなくして、テレビ会議が始まる。社内管理システムの改修プロジェクトに関わる進捗確認が目的だ。会議の相手は、東京のガリバー本社にいるITチームのメンバーである。「実装作業は順調に進んでいる」など、ベトナム側から開発の進捗について報告が続く。目立ったトラブルはなく、この日は15分ほどで会議が終了した。

 この後、ベトナム側のメンバー同士でコミュニケーションを取り、抱えている課題や注意事項、他プロジェクトの状況を共有する。午前10時ごろに解散し、各メンバーは業務に戻った。「週に3回は、プロジェクト単位で日本と定例会議をしている」。1カ月に1週間程度はベトナムに滞在し、プロジェクト管理などの業務に当たる坂口氏は、こう説明する。

ネクストチャイナの本命

 ガリバーは、ベトナム企業にシステム開発を直接委託した。実はそうしたケースは着実に増えている。2004年から同国で開発を続ける通販大手のニッセン、2011年にインドから切り替えたゴルフダイジェスト・オンライン、2012年に10年ぶりとなるオフショア開発をベトナムで再開させたリクルートテクノロジーズ、などがそうだ。

図1 2013年のベトナムIT産業
図1 2013年のベトナムIT産業
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 ベトナムへの発注が増えている背景には、日本にとって最大のオフショア先である中国の人件費高騰がある。コスト競争力に優れ、中国に次ぐ日本語人材をそろえるベトナムは、「ネクストチャイナ」の本命という立場を確立しつつある(図1)。情報処理推進機構(IPA)の「IT人材白書2012」によると、日本企業への調査で、今後のオフショア開発の候補地としてベトナムを挙げた回答がトップだった。

海外拠点の基幹システムを開発

図2 ガリバーインターナショナルのオフショア施策
ベトナム2都市に大規模な体制築く
図2 ガリバーインターナショナルのオフショア施策
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 「当社の開発、保守作業全体の6~7割をベトナムで手掛けている」。こう語るのは、ガリバーの許哲執行役員だ。同社がベトナムでの開発を始めたのは2013年のこと。それから1年強の間に、ハノイと中部の都市ダナンで200人近い体制にまで拡大させた(図2)。

 規模の拡大とともに、ベトナムの開発チームが果たす役割は日に日に重要さを増している。ガリバーは経営戦略として、アジア・オセアニア地域での中古車事業の積極展開を掲げる。2014年3月にはタイにASEANで初となるガリバーブランドの店舗を、2014年11月にはニュージーランドにオセアニア1号店となる直営店舗をオープンさせた。それぞれ中古車販売の手法が異なるため、新たな基幹業務システムを構築する必要があった。

 この開発案件を手掛けたのは、ベトナム・ハノイのチームである。「Amazon Web Services(AWS)」のシンガポールリージョンにタイ向けシステムを、オーストラリアリージョンにニュージーランド向けシステムを構築した。「この先他国に新規出店する際、販売モデルが同じであれば新たに業務システムを構築する必要はない。店舗展開をスピードアップできるはずだ」と、坂口氏は語る。

 国内向けの基幹システムもAWSへの移行を進めており、そのプロジェクトを推進しているのはベトナム・ダナンの開発チームである。ガリバーの国内向けシステムのほぼ全てを引っ越す大作業。16人の技術者がデータ移行やアプリケーション改修などに当たっている。2014年10月には車両データベースなどの移行に着手。全体で既に約半分が移行済みだという。

 ガリバーのベトナム拠点を成功に導いた秘訣は何か。ダナンで100人超の技術者をまとめる加藤氏は、「委託先の現地メンバー全員と直接コミュニケーションを取り、人間関係を構築することだ」と言い切る。オフショアを始める際、加藤氏は自らの判断でダナンに半常駐することを決めた。

 もう一つは、チームでの管理体制。「50人くらいまでは1人でコントロールできたが、100人となると厳しい」(加藤氏)。加藤氏らは2014年7月にPMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)チームを組織し、各プロジェクトや技術者を管理する体制を整えた。現在はプロセスの共通化や保守手順書の整備といった、ルールの策定作業に没頭している。新しく加入する技術者が増えるなか、作業品質を保つためだ。

「ベトナムに固執するつもりはない」

 ガリバーはベトナムに新たな拠点を手に入れたが、ゴールにたどり着いたわけではない。今はベトナムがベストと判断しているが、同国に固執するつもりはない。目指すのは、「最適な場所や委託先を選択できる状態」(許執行役員)だ。

 つまり、狙いはベトナムに開発・保守拠点を作ることではなく、発注者として成熟することで、将来的にどこの国にでも拠点を移せるようにすることだという。

写真1 ガリバーインターナショナル ITチームの加藤大清氏(右)と坂口直樹氏
開発体制の構築に奮闘
写真1 ガリバーインターナショナル ITチームの加藤大清氏(右)と坂口直樹氏

 許執行役員は、「5年以内には100%ベトナムに委託できるようにしたいが、将来的にはさらに別の国に移すかもしれない。日本がベストと判断すれば日本に戻す選択肢もあり得る」と話す。

 新たな拠点に移すことに対し、「ゼロから開発・保守体制を作るのは大変。あまり気は進まない」と笑いながらも、「やろうと思えばやれるだろう」。ベトナムで奮闘する加藤氏と坂口氏の2人は自信をのぞかせる(写真1)。