写真:gerlos
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システム刷新のために、日本郵政グループは最大1万人、みずほ銀行は8000人のITエンジニアをそれぞれ囲い込むとされる。「マイナンバー」制度へのシステム対応にも、多くのIT要員が必要になりそうだ。
大型プロジェクトの集中とIT投資の回復が重なり、深刻なITエンジニア不足が懸念される「2015年問題」。その“暗雲”が、日本のIT業界に漂い始めた。
だが、焦る必要はない。まずはIT関係者1191人を対象に実施した緊急調査から、2015年問題の現状を知り、有効な解決策の立案に役立てよう。

調査概要

 Webサイト「ITpro」でアンケート調査を実施(調査期間は7月4日から7月11日までと同18日から25日までの2度、以下同)。有効回答数は1191件

図1 「あなたは『2015年問題』を知っているか」に対する回答
7割が「2015年問題」を不安視
図1 「あなたは『2015年問題』を知っているか」に対する回答
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 7割…。ITエンジニア不足に不安を抱くIT人材の割合だ。「『2015年問題』を知っているか」との質問に対して、「知っており、自分も影響を受けそうで不安である」(45.8%)と、「知らないが、自分も影響を受けそうで不安である」(21.6%)の合計は67.4%である(図1)。1191人中800人以上のIT人材が、これから人手不足に陥り、システム開発や運用・保守に何らかの支障が出そうであると心配しているわけだ。

 ユーザー企業よりもITベンダーの担当者の方が、2015年問題に対する警戒心が強いようだ。ITベンダー(回答者数616人)については、「知っており、自分も影響を受けそうで不安」(53.7%)と、「知らないが、自分も影響を受けそうで不安」(16.9%)の合計は70.6%で、先に示した全体の67.4%を3ポイント上回る。「新規案件に人が充てられず、ビジンスを逃している。社員を採用しようにも、とにかく人が集まらない」(中堅ITベンダー)。同様の“悲鳴”が多く寄せられた。

 一方、ユーザー企業のシステム部門(回答者数253人)は65.2%だった。その内訳は、「知っており、自分も影響を受けそうで不安」が42.7%、「知らないが、自分も影響を受けそうで不安」は22.5%である。

 「自社に多くのITエンジニアがいるわけではないので、ITベンダーに頼るしかない。しかし、先方も人手が不足している」(大手ユーザー企業)。さらに、「以前なら承諾してもらっていた(システム開発の)納期の条件を、ITベンダーから断られるケースが増えた」(中小ユーザー企業)といった声が寄せられた。これに対して、「懇意にしているITベンダーがあるから(人材確保は)大丈夫」と言うユーザー企業のシステム担当者もいる。だが、ITベンダーの取引先は自分たちだけではない。付き合っているITベンダーの要員不足の状況などについて、早急に情報収集するのが賢明だろう。

図2 「人手が不足している/これから不足する、と特に感じる職種はどれか」に対する回答
53%がSE/プログラマーに不足感
図2 「人手が不足している/これから不足する、と特に感じる職種はどれか」に対する回答
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 調査では不足する職種も聞いた。「人手が不足している/これから不足すると特に感じる職種はどれか」との質問に対しては、「SE/プログラマー」(52.6%)が過半数を超えた。これに「プロジェクトマネジャー」(36.8%)が続く(図2)。「ITコンサルタント」の回答は5.7%で、大半がシステム開発現場で汗を流す人材の不足を心配している。

 SE/プログラマーの確保を怠ると、システム開発プロジェクトが失敗するリスクが高まる。今後は、「高いスキルを持つSEから仕事が埋まっていく。(要員確保が遅れれば)スキルの低いITエンジニアをアサインせざるを得なくなり、プロジェクトの失敗につながる可能性が高まる」(大手ITベンダー)。

 特に急いで確保すべきは、JavaやWeb系の技術者のようだ。「2015年問題は、もっぱらJavaやWeb系エンジニアが不足するという問題。メインフレーム技術者は“蚊帳の外”という印象だ」(大手ITベンダー)との指摘もあった。

人員確保は中小ITベンダーの役目?

 人手不足に対して、ITベンダーやユーザー企業はどう備えているか。「ここ1年間で、あなたが所属する組織の人数は増えたか」と質問してみた。

図3 「ここ1年間であなたが所属する組織の人数は増えたか」に対する回答
IT企業は増員、ユーザー企業は減員傾向
図3 「ここ1年間であなたが所属する組織の人数は増えたか」に対する回答
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 「増えた」との回答比率は、ITベンダーが34.1%だったのに対し、ユーザー企業のシステム部門は20.5%(図3)。逆に「減った」と回答したのはITベンダーが28.7%、ユーザー企業のシステム部門が33.2%だった。

 ITベンダー/ITコンサルティング会社は増員傾向、ユーザー企業のシステム部門/ユーザー企業のシステム子会社は減員傾向である。「ユーザー企業は深刻。この手の話題は経営層が理解を示さない。費用対効果しか見ておらず、問題を訴えても暖簾に腕押しだ」(中堅企業)。こんな本音が自由意見として記入されていた。

 増員傾向の強いITベンダーだが、規模別で見るとどうか。従業員5000人以上の大手ITベンダーについては、「増えた」が23.8%、「減った」が32.0%。一方、従業員500人未満のITベンダーについては、「増えた」(41.5%)が、「減った」(24.3%)の回答比率を大きく上回った。大手ITベンダーは直接、雇用者を増やさずに、下請けである中小ITベンダーが“調整弁”として人材確保を急ぐ、というIT業界の構図が浮かび上がってくる。

職場環境が悪化する恐れも

 今回の調査では、「今後2~3年、あなたの仕事の負荷はどのようになると予測するか」についても聞いた。「負荷がかなり増えそう」が37.0%、「負荷が少し増えそう」が33.3%。合計7割の回答者が、業務負荷が高まると予想する(図4)。特に30代のIT関係者は、「かなり増えそう」が45.9%、「少し増えそう」が31.5%と回答しており、働き盛りの社員の業務負荷の高まりが心配される。

図4 「今後2~3年、あなたの仕事の負荷はどのようになると予測するか」に対する回答答
7割が業務負荷が増えると予想
図4 「今後2~3年、あなたの仕事の負荷はどのようになると予測するか」に対する回答答
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 「3K(きつい・厳しい・帰れない)」などと指摘されるIT職場だが、ここ数年は職場環境の改善に熱心な会社が増えている。それが2015年問題を契機に長時間労働が増えるなどして、取り組みが“後退”するかもしれない。

図5 「あなたが所属する組織は、人手不足を補うための対策を打っているか」に対する回答
68%が現時点で手付かず
図5 「あなたが所属する組織は、人手不足を補うための対策を打っているか」に対する回答
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 では、2015年問題を意識して対策を講じているところはどれくらいあるのだろうか。「あなたが所属する組織は、人手不足を補うための対策を打っているか」と聞いたところ、「対策を打っていない」が68.3%だった。「対策は打っていないが、準備を始めている」が19.0%、「対策を打っておらず、準備も進めていない」が49.3%という内訳だ(図5)。ユーザー企業のシステム部門については、「対策を打っていない」との回答比率が80.6%、ITベンダーは64.0%である。ユーザー企業の2015年問題に対する危機意識は、ITベンダーよりも低いといえそうだ。

6割が社内での育成を志向

 2015年問題によってIT職場の環境が悪化することは是が非でも避けたい。ITエンジニアの業務負荷を高めずに、人手不足を解消するには、どのような手段が有効だろうか。

 「2015年問題のような人材不足を解消するために有効な対策は、何だと考えるか」と聞いたところ、「自社での人材育成・教育を充実させる」と答えた比率が6割と最も高かった。それに、「自動化ツールなどを活用する」、「業務委託先への発注量を増やす」、「クラウドソーシングを活用する」、「海外へのオフショア開発を増やす」が続く(図6)。

図6 「2015年問題のような人材不足を解消するために有効な対策は、何だと考えるか」に対する回答
6割が自社育成に光を見出す
図6 「2015年問題のような人材不足を解消するために有効な対策は、何だと考えるか」に対する回答
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 IT関係者の多くは、真正面作戦で人手不足を乗り切るのが得策と考えているようだ。「自動化ツールで単純作業を減らしつつ、SEのスキルアップによる生産性の向上を図るべき」(中堅ITベンダー)、「オフショア開発を推進しており、成否を握るブリッジSEの育成が鍵」(中堅システム子会社)との意見があった。このほか、「実務的な教育機関である専門学校の役割強化」(中小ユーザー企業)、「リタイアした人材の活用」(中堅ITベンダー)など、即戦力を調達しやすくする仕組みづくりを挙げる意見も目を引く。

 2015年問題を乗り切るための“正解”はないが、大事なことはある。ユーザー企業に求められるのは、システム開発プロジェクトに対する当事者意識を持ち、要員確保をITベンダーに丸投げしないことだ。ITベンダーは、ユーザー企業の“御用聞き”になり、SEの頭数を揃えるだけではいけない。スキルの低いSEを急遽あてがったところで、プロジェクト失敗のリスクが高まるだけだからだ。

 7割が不安視する2015年問題は、IT業界の構造や働き方を見直す良い機会になるかもしれない。最後に、2015年問題に対する様々な意見を見てみよう。

現場では既に疲弊の兆し

 今回の調査では、2015年問題に対する自由意見も募った。ITエンジニア不足という問題を「今まで入り込めなかった顧客に食い込むチャンス」と捉える楽観論もあれば、「2年後に廃業する準備をしている」との悲観論まで様々な意見が寄せられた。

「とにかく集まらない」、人手不足は始まっている

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悲観論が相次ぐ、前向きな意見は少数

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解決の一手は多彩、ただし不安の声も

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要因は「悪しき業界構造」、批判する意見が集中

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