人工知能(AI)が発展し、汎用的に利用できるAIが人間の能力を超える状態になること、またそのタイミング。技術革新の頻度が高まり人類の発展に貢献するという専門家や、超人間的なAIが人類の脅威になると指摘する専門家がいる。

 数年前まで主に大学や企業の研究室向けのテーマと考えられていた「人工知能(AI)」が、ゲームや音声エージェント、チャットボット、翻訳サービス、自動運転などの身近な機器やサービスに組み込まれる例が増えている。こうしたAIはあらゆる用途に汎用的に対応できるものではないものの、適用範囲は急速に拡大している。音声認識や画像認識など一部の分野では、人間と同等以上の成果を出せるようになりつつある。

 このままAIの発展が続くと、いずれは特定用途に限らず多目的に利用できるAIが登場し、そうしたAIの能力が人間の能力をはるかに超える状態になることが考えられる。この人間とAIの能力が逆転する状態・時点を、「シンギュラリティ」(技術的特異点)と呼ぶ。

 シンギュラリティに関しては「いつ訪れるのか」と「シンギュラリティ後に社会がどう変化するのか」の2つの議論が盛んだ。米グーグルでAI関連の責任者を務めるレイ・カーツワイル氏は、シンギュラリティを地球上の全ての人間の脳の処理能力を超えるAIが登場するときとして定義し、その時期が2045年ごろになると予測している。この予測から、シンギュラリティが社会に与える影響を総称して「2045年問題」とも呼ぶ。同氏はシンギュラリティ後の社会について、AIがAI自身を進化させて加速度的に技術革新が起こり、社会が恩恵を受けるという楽観的な見方をしている。

 これに対して、シンギュラリティ以降は人間がAIをコントロールできなくなり大きな脅威となるという悲観的な専門家や、AIの活躍分野が広がっても21世紀中にシンギュラリティといえるほどの劇的な変化は訪れないと考える専門家もいる。

2016年11月にリニューアルして、より自然な翻訳ができるようになった米グーグルの翻訳サービス「Google翻訳」。人間の脳神経系をシミュレーションした情報処理の数学モデルである「ニューラルネットワーク」技術を導入し、より正確な訳語の選択や文法的に正しい翻訳が実現したという
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