システム開発プロジェクトの成功のポイントをまとめたもの。プロジェクト難航時などに適用することで状況打開に役立つ。2013年に国際規格になり、最近では日本でも注目が集まりつつある。

 システム開発プロジェクトを進める途中で立ち行かなくなり、目的に合うシステムができそうにない。そんな場面にIT部門は直面しがちです。その一因に、システム開発プロジェクトの内部に何らかの問題があり、それが放置されたままになっていることが挙げられます。

 そんなとき、開発の現場にベテランのプロジェクトマネジャーがいなくても、問題を特定し、解決につなげられる方法論があります。それがImprovAbilityモデルです。

特徴:20項目でプロジェクト診断

 ImprovAbilityモデルはデンマーク発祥の方法論で、プロジェクトを成功に導くポイントをまとめたものです。2000年代前半から方法論の研究が始まり、2013年に国際規格「ISO/IEC TR 33014」に定められました。

 方法論の開発では、デンマークの大手金融機関や研究機関などから専門家が40人ほど集まり、3年がかりで1000人のシステム開発関係者にインタビュー。開発プロジェクトで成功したものと失敗したもののそれぞれで調査を実施し、成否を分けるポイントをまとめていきました。

 そこから「ビジネス戦略とビジョンがどの程度立てられているか」といった、合計20項目の問いを導きました。これらは、ビジネスとITを考える「IT構想力」、確実にシステム化していく「IT構築力」、ビジネスにITを活用する「IT活用力」、企業内組織の基本特性を示す「IT基幹力」の4つのカテゴリーに分けられます。

 20項目のポイントを基に、プロジェクト関係者にヒアリングをかけると、そのプロジェクトではどのポイントが弱いのかが分かります。加えて、解決策の立て方の手引き書も用意されています。

適用:2~3時間の聞き取りで判明

 ImprovAbilityモデルには、20項目のポイントに加え、「プロジェクトのサイズ」「対象ユーザーの範囲」など、プロジェクトそのものの特徴を見る仕組みも含まれています。この特徴を踏まえることで「多くの弱点が見つかったプロジェクトでも、どれを解決すればよいかが絞り込める」と、南山大学理工学部の菊島靖弘客員教授は説明します。

 しかも20項目のポイントを明らかにするヒアリングは、2~3時間で済みます。プロジェクトの開始時だけでなく、「進行中のプロジェクトが立ち行かなくなったとき、すぐにチェックして難航した状況を打開できる」と、三菱総合研究所の石谷靖主席研究員は効用を語ります。健康診断前に書く問診票のように、手軽にプロジェクトの“健康”状態をチェックできる方法論といえそうです。

 国内でも最近、開発プロジェクトで適用が始まっています。石谷氏も難航していたある大規模プロジェクトの支援にこのモデルを使いました。20項目に沿って関係者に聞き取りをしたところ、内部のコミュニケーションが不十分であるとの診断結果が出ました。その解決に動き、課題を克服できたのです。