デザイナーの作業手順や考え方を、製品やサービスの企画・開発に取り入れること。新たなマーケットを創出する製品やサービスを企画・開発できるとして、製造業を中心に導入が広がっている。

 エンジニアとデザイナーでは、製品やサービスを企画・開発するときのアプローチが異なります。一般にエンジニアは最先端の技術に詳しく、技術の進歩に追従して新製品を企画・開発しがちです。例えば携帯型音楽プレーヤーであれば、既存の高音質化技術を改良したり、画面を液晶から有機ELに変えたりするといったアプローチです。

 一方、デザイナーが追究するのは顧客が商品を手に取ったときの「使い方」や「感じ方」です。そのため、新製品の企画・開発でも「これまでとは違った使い方や感じ方」となるようにアプローチします。携帯型音楽プレーヤーでいえば、指先で円を描きながら滑らせて操作するタッチパッド方式に変えるといったことです。結果、これまでにない製品が生まれることがあります。

 このように、顧客、つまり「人」を起点にしたアプローチが、「デザイン思考」と呼ばれるものです。

背景:技術起点で競争に敗れた反省

 かつて日本の家電メーカーは世界のテレビ市場を席巻しました。しかし、アジア諸国の家電メーカーが台頭し、あっという間に駆逐されてしまいました。技術はコモディティー化しやすく、最後は価格の安さでしか差異化できません。技術を起点とした従来の企画・開発では、もはや競争力のある製品やサービスを生み出せません。

 今、企業が求めているのは、既存の製品やサービスの延長線上にはない、全く新しい製品やサービスの創出です。これを実践できると期待されるのが、デザイン思考なのです。一般社団法人デザイン思考研究所の柏野尊徳代表理事所長は「0から1の価値を生み出す手法だ」と説明します。既にソニーや日立製作所、ヤマハ、ヤフーなどが取り入れて実践しています。