サービスデザイン思考とは、サービスの利用者がサービスの利用を通じて得られる利便性などの効果や、利用前後の心理・感情の変化まで含めた体験全体を最良にすることを目指してサービスを設計する手法や考え方です。

 政府のIT総合戦略本部が2017年5月に公表した「デジタル・ガバメント推進方針」では、サービス、プラットフォーム、ITガバナンスという、電子行政に関するすべてのレイヤーの変革を目指し、その推進にあたっての新しい取り組みとして「サービスデザイン」の活用を掲げました。

 煩雑でわかりにくいと批判されがちな行政サービスを、利用者が「すぐに」「簡単に」「便利に」使えるように改革していくには、利用者価値を最大化する観点からサービスを再設計するサービスデザインの考え方が基軸になると判断したからです。

優れたサービスは良質なストーリーとして顧客に体験されるべき

 サービスデザインは、欧米を中心に民間企業や行政機関で発達した、サービスの設計手法や考え方です。新しいサービスを創造したり、既存のサービスを改良したり、利用者にとって有益で使いやすく望ましいサービスを実現したりするのに役立ちます。

 ビジネスとしてサービスデザインという言葉を最初に使ったのは、2001年設立の英Liveworkといわれています。同社はサービスデザインを、「様々な接点を通じて、時間の経過を伴って人々に届く体験のデザイン」と定義しています。サービスの開発にあたって、顧客の体験(ユーザーエクスペリエンス)だけではなく、それを提供する側の利害関係者、バックエンドの仕組み、競合サービスや、従業員のモチベーションなども考慮します。エスノグラフィ(フィールドワークにおける記述とモデル化のための手法)、経営学、インタラクションデザインなどを基に開発されました。

 2004年には欧州を中心に「サービスデザインネットワーク」という学界や産業界をまたいだ国際ネットワークが設立され、2013年に日本支部が設立されています。米国では、大手銀行キャピタルワン、製造業のGE、大手百貨店ノードストローム、病院などで、顧客価値を最大化するためのイノベーションの手法として、サービスデザインが幅広く取り入れられています。

 サービスデザインにおいては、サービスは「舞台」にたとえられます。興行のように、サービスはそれを提供する役者であるフロントエンドのスタッフやシステムのユーザーインタフェース、観客である顧客、裏側でサービス提供を支えるスタッフや情報システムなどから構成されます。小道具にあたるような、顧客とサービス提供者との間でやりとりされる配布物やクーポンなどの物品もあります。

 また芝居は一つひとつの場面がつながって、全体としてのストーリーとして成り立っています。同様にサービスも、時間軸に沿って複数のイベントが展開していく動的なプロセスです。優れた演劇のように、優れたサービスは良質なストーリーとして顧客に体験されるべきものです。これらのサービスの提供は複数の利害関係者の共同作業として行われ、中でもサービスデザイナーは全体の協調作業を可能にする演出家のような役割を果たします。