メトリックとは、コンピュータネットワークで宛先までのパス(経路)の「距離」を示す指標である。送信元から宛先までに複数のパスが存在する場合、IP通信においては、パスごとのメトリックを比較し、通常は最も近いパスを使って通信データが届くことになっている。ここでいう距離とは、送信元から宛先までの物理的な長さを示す値ではない。どのパスを使うかを指定できるように、論理的に決められる指標である。

 例えばメトリックを、宛先までのパス上に存在するルーターの数(ホップ数)と定義したとする。で示した送信元から宛先までの赤いパスと緑のパスを比較すると、赤いパスは3台のルーターを経由するのに対して、緑のパスは4台のルーターを経由する。この場合、宛先までの距離を示すメトリックは赤いパスのほうが近いことになるので、通信データは赤いパスを使って送られる。

図●メトリックの種類によって最短経路が変わる
図●メトリックの種類によって最短経路が変わる
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 メトリックを定義するのは、主にルーティングプロトコルである。ルーターは、周囲のルーターから経路情報を集めて、受け取った通信データをどのポートに転送するかを記述したルーティングテーブル(経路表)を作成する。ルーティングプロトコルでは、このルーティングテーブルの作成方法を決めている。

 ホップ数をメトリックとするルーティングプロトコルの代表格は、「RIP」(Routing Information Protocol)である。

 ホップ数以外では、メトリックにコストという概念を用いる「OSPF」(Open Shortest Path First)がある。コストとは、各パスに付与する数値のこと。OSPFでは、各パスのネットワーク帯域を基に、広ければ低く、狭ければ高くコストが設定され、送信元から宛先までのコストの総和をメトリックとして定義する。例えば、各パスのコストが図で示すように設定されていた場合、赤いパスのコストは6であるのに対して、緑のパスのコストは5だ。つまり、OSPFでは緑のパスを使って通信データが送られることになる。管理者が意図的にコストを調整すれば、使用するパスの制御も可能だ。

 なおRIPやOSPFでは、通信データを送り出す前にメトリックを計算しないと、転送先が決まらない。そのため、これらのルーティングプロトコルは、大規模ネットワークには向かないといわれている。大規模ネットワークでは、メトリックに基づかない経路選択を行うルーティングプロトコルが使われる。